
黒い牛をしま模様にした「シマウシ」には虫が寄り付きにくい―。日本の研究チームの取り組みが、ユーモラスな研究を表彰する今年のイグ・ノーベル賞を受賞した。日本人の受賞は19年連続。時事通信の取材に応じた研究者は、しま模様が虫よけになるという結果に「(最初は)自分でも半信半疑だった」と振り返り、研究の経緯とともに、思わぬ受賞への喜びを語った。
農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構、茨城県つくば市)の兒嶋朋貴研究員(41)は、愛知県農業総合試験場(長久手市)に勤務していた2019年、今回の受賞対象となった研究論文を発表した。研究のきっかけは、畜産農家から寄せられた「牛に付く虫の対処法はないか」という相談だった。
牛がアブなどの吸血昆虫に刺されると伝染病の恐れがある。また、虫を追い払おうとして、牛が十分に休めないと、体重が増えにくくなったり、牛乳の生産量が減ったりするという悩みを多くの農家は抱えていた。
そうした中、テレビ番組でシマウマの模様に虫よけ効果があるとの仮説を目にした兒嶋氏。「牛にも使えるのでは」というアイデアが浮かんだ。
白い塗料で胴体にしま模様を描いた黒毛和牛と何もしていない牛などを比べ、付着する虫の数や追い払おうとする牛の動きを確認。その結果、白い塗料でしま模様にした牛は、他の牛に比べて付着した虫の数が半分しかないことなどが分かった。
兒嶋氏はイグ・ノーベル賞のファンで当時は受賞も意識したが、論文は発表後に国内外で話題となり、もはや意外性はないと諦めていた。それだけに受賞の知らせを受け、驚いたという。
今年9月に米ボストンで開かれた授賞式。ユーモアを重視する賞だけに、受賞スピーチで観客を笑わせるのが恒例だ。兒嶋氏は「自分の順番が終わるまで記憶がない」ほど緊張していたが、シマウマ柄のシャツ姿になると模型のハエが逃げていくという演出で、会場を沸かせた。「一生に一度あるかどうかの貴重なこと。受賞できて良かった」と満足げだった。
研究の実用化には課題もある。兒嶋氏は「模様を長期間、きれいに維持する必要がある」として、「塗料を製造する企業などの知恵を貸してほしい」と要望した。また、受賞によって研究に興味を持つ子どもが増えたらうれしいと語り、「正解ばかりを求めず、やりたいことに挑戦してほしい」と期待を込めた。
◇イグ・ノーベル賞
イグ・ノーベル賞
ノーベル賞のパロディーとして1991年に創設。米科学ユーモア誌「ありそうにない研究年報」が主催し、毎年10件ほど「人々を笑わせ、考えさせる業績」を表彰する。
日本人は2007年以降、19年連続で受賞するなどしており、昨年は「哺乳類が腸で呼吸できることを証明した研究」に生理学賞が贈られた。
【時事通信社】
〔写真説明〕白い塗料でしま模様に塗られた黒い牛(愛知県農業総合試験場提供)
〔写真説明〕「イグ・ノーベル賞」授賞式に臨んだ農業・食品産業技術総合研究機構の兒嶋朋貴研究員(中央)ら=9月18日、米マサチューセッツ州のボストン大
〔写真説明〕インタビューに応じる農業・食品産業技術総合研究機構の兒嶋朋貴研究員=10月21日、茨城県つくば市
2025年11月15日 16時25分