
【ソウル時事】韓国の尹錫悦前大統領による「非常戒厳」宣言から3日で1年。内乱首謀罪で起訴された尹被告の一審は来年1月に結審し、2月にも判決が出る見通しだ。尹被告は一貫して無罪を主張。しかし、一時は盛り上がった尹被告を支持する世論も縮小した。判決によっては憲法や民主主義制度の根幹を揺るがしかねないだけに、主張が認められるという見方は乏しい。
◇憲法裁判断が影響か
起訴状によると、尹被告は2024年12月3日、金龍顕前国防相らと共謀し、憲法秩序を乱す目的で戒厳を宣言。軍や警察を動員して国会を封鎖し、兵士を議事堂に侵入させた。政治活動を禁止した布告令発出や選挙管理委員会への軍動員などにも関与したとされる。
4月から週2回程度の頻度で公判が開かれ、情報機関の国家情報院、陸軍の元幹部らが証言台に立った。裁判所は今後、証人尋問、検察求刑や尹被告の最終陳述を経て結審する方針を示している。
内乱首謀罪の法定刑は死刑または無期刑だが、情状をくみ減刑の可能性もある。尹被告は「戒厳は数時間で終わり、暴力的でなかった」と、全面否認している。
ただ、憲法裁判所は4月、戒厳宣言が憲法の定める戦時・事変などの要件を満たさず、閣議や国会への通告もなかったと指摘。国会封鎖や政治活動の禁止が「重大な違法行為だった」と認定し、大統領罷免を決めた。戒厳に対する初の司法判断で、刑事裁判にも影響するとみられている。
◇昨年総選挙後から戒厳言及
公判では、尹被告が24年4月に総選挙で野党が圧勝した直後から戒厳に言及していたという証言も公になった。呂寅兄前軍防諜(ぼうちょう)司令官は、24年5~6月、金氏を交えた夕食の席で「尹被告が国の情勢を心配しながら感情的になり、戒厳を話題にした」と明らかにした。呂氏は席上、軍は日ごろ戒厳の準備をしていないと説明し、「不可能だ」と助言したという。呂氏の予想通り、戒厳宣言が出されても、動員された部隊の対応は消極的だった。
◇尹被告以外に20人超起訴
今年6月の李在明政権発足後、特別検察官が任命され、捜査が加速。11月には、戒厳宣言の大義名分をつくるため、北朝鮮に無人機を飛ばして韓国への攻撃を誘発しようとしたとして、尹被告らを外患罪の一種「一般利敵罪」などでも起訴した。韓国メディアによれば、尹被告は内乱や外患、職権乱用など計5件の裁判を抱えている。
金氏や呂氏を含め、事件に絡み起訴された閣僚や軍幹部は20人を超える。韓悳洙前首相も戒厳宣言を阻止しなかったとして起訴され、判決は被告の閣僚らの中で最も早く来年1月21日に言い渡される見通しだ。
【時事通信社】
〔写真説明〕ソウル中央地裁に出廷した韓国の尹錫悦前大統領=9月26日(EPA時事)
2025年12月03日 07時09分