
東京電力福島第1原発の20キロメートル圏内に位置する福島県富岡町で醸造された初のワインが今春、新たに販売される。生産者は、東日本大震災で同町にあった自宅を失った遠藤秀文さん(54)。「地域振興につなげたい」と10年前にブドウの植樹とワイン造りに取り組み、昨年5月には醸造所「とみおかワイナリー」をオープンさせた。併設するワインショップとレストランは地元住民や震災で避難した元町民らの交流の場になっている。
中米やオーストラリアで暮らした経験がある遠藤さんは、かねて気候や土壌といった地域の風土を象徴し、地元の料理の影響も受けるワインに興味があった。「町の活性化につながる」と考え、建設コンサルト会社で働く傍ら、2007年ごろ、富岡町でワイン造りに挑戦すると決めた。
しかし、間もなくして、大震災が起きた。新築したばかりの自宅は津波で流され、跡地は除染作業で出た廃棄物の仮置き場になった。苦しい状況の中でもワイン造りへの情熱が消えなかったのは「復興のため、人が集い、感情が動かされるような場所をつくりたい」との思いがあったからだ。
「ブドウ栽培の実績も無い土地で、放射性物質の懸念もある。無謀だ」といった冷ややかな声もあったが、16年に最初のブドウの木を植えた。その後、25年までに、約7ヘクタールの畑に震災前の町の人口と同じ1万6000本を植樹した。資金は、クラウドファンディング(CF)などで集めた。遠藤さんの思いに共感し、県内外の延べ100人以上がボランティアで手伝いに訪れた。
当初はブドウが満足に実をつけない年が続いた。国内有数の産地である山梨県のワイナリーの指導を受けて試行錯誤を重ね、品質や収穫量は徐々に向上。昨年5月に「とみおかワイナリー」をオープンさせたことで、収穫から生産まで町内で一貫してできる体制を整えた。
太平洋を望む富岡町で育ったブドウで造るワインは、地元の海産物とよく合う辛口で、ほのかな塩味もある。ワイナリーやレストランの存在は観光客や地元住民の間で評判となり、震災を機に町を離れた元町民が訪れる機会も増えた。「旧交を温めたり、町について話したりする、思い出づくりの場になってきた」と遠藤さん。ワインを通じ、人の交流が生まれたことに手応えを感じている。
【時事通信社】
〔写真説明〕ワインを手にする、とみおかワイナリー社長の遠藤秀文さん=2月3日、福島県富岡町
〔写真説明〕取材に応じる、とみおかワイナリー社長の遠藤秀文さん=2月3日、福島県富岡町
〔写真説明〕取材に応じる、とみおかワイナリー社長の遠藤秀文さん=2月3日、福島県富岡町
〔写真説明〕とみおかワイナリー内に並べられたワイン=2月3日、福島県富岡町
2026年03月06日 16時07分