【ロンドン時事】大西洋上に浮かぶ北欧の島国アイスランドは、世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ指数」で15年連続してトップに立つ男女平等の「最先進国」として知られる。ただ、これは与えられた平等ではない。50年前の「女性のスト」を転機に勝ち取ったものだった。
◇全土で9割参加
1975年10月24日、アイスランド全土で9割の女性が一斉に仕事や家事を休んだ。女性が担う役割の重要性を認識させるとともに、賃金の平等などを求め「ストライキ」を決行したのだ。スト当日、首都レイキャビク中心部の広場で開かれた集会には約2万5000人が参加。「平等を今すぐ」「もっと託児所を」といったプラカードを掲げる女性もいたという。
小中学校は休校となり、多くの店舗や工場も休業を余儀なくされた。夫らは子連れ出勤するか家に残るかを迫られ、家事も担うことに。この運動が5年後の80年、世界初の民選の女性国家元首となるフィンボガドッティル元大統領(94)の誕生につながる。
昨年8月に同国で2人目の女性元首となったトーマスドッティル大統領(56)は、時事通信の書面インタビューで「女性が働かなければ、ほとんどのことがうまく機能しないと女性たちは示した。私たちはこの勇気から多大な恩恵を受けている」と説明。男女平等を進める上で「女性のスト」が果たした役割の大きさを強調した。
◇止まらぬ歩み
アイスランドでは昨年12月、総選挙で第1党となった社会民主同盟のフロスタドッティル党首(36)が首相に就任した。「最先進国」の同国でも、大統領と首相を同時に女性が務めるのは初めてだ。
アイスランド大のステイントールスドッティル非常勤講師(ジェンダー研究)は時事通信に対し、男女平等による社会全体への効果として「経済面では税収などで多大な利益をもたらす」と指摘。さらに「女性が育児、男性が稼ぎ手という昔ながらの家庭では、一家の大黒柱としての責任を負う男性が、大きなプレッシャーを抱えることになる」と述べ、誰もがジェンダーにとらわれず自分らしくいられる社会の構築を訴えた。
トーマスドッティル大統領は、アイスランドでも真の平等が実現したわけではないと語る。「男女格差解消で世界をリードしているかもしれないが、まだ(達成度は)80~90%だ」と自己評価。課題として「ジェンダーに基づく暴力」などを挙げた。
アイスランド統計局によると、2023年の男女賃金格差は9.3%と、前年の8.6%から拡大した。同年10月にも賃金格差や女性への暴力に抗議する「女性のスト」が行われ、ヤコブスドッティル首相(当時)も参加。ジェンダー平等のトップランナーが歩みを止める気配はない。
【時事通信社】
〔写真説明〕アイスランドのトーマスドッティル大統領(右)とフロスタドッティル社会民主同盟党首(現首相)=2024年12月3日、レイキャビク(大統領府提供・Una
Sighvatsd※ttir撮影<※アキュートアクセント付きo>
〔写真説明〕
〔写真説明〕アイスランドのフィンボガドッティル大統領(左)と会談する橋本龍太郎首相(肩書は当時)=1996年4月、首相官邸
〔写真説明〕「女性のスト」でプラカードを掲げる女性たち=1975年10月、レイキャビク(レイキャビク写真美術館提供・時事)
2025年03月10日 12時40分