「分断と交流」揺れる金門島=最前線が観光地化―中国から2キロの台湾



中国南部・福建省から最短で2キロの沖合に位置し、台湾が実効支配する金門島は1949年の分断以来、中台の最前線となってきた。経済的に中国人客の観光収入に支えられてきた同島は、中台の「分断と交流」のはざまで揺れている。

◇砲撃ショーに歓声

金門島北部の岩山に設けられた砲台「獅山砲陣地」では、定時に大砲の「発射ショー」が行われる。実弾が使われているわけではないが、発射の合図と共に「ドンッ」と大きな音が響くと、数十人の観客が歓声を上げた。台湾のツアー客に交じり、中国からの旅行者も熱心に動画を撮っていた。

中国当局は昨年9月、新型コロナウイルス感染拡大後に停止していた金門島への旅行を福建省住民に限って解禁した。同島を含む金門県選出で対中融和的な台湾野党・国民党の陳玉珍立法委員(国会議員)は「両地域の往来は活発化しており、島内各界は今後さらに経済的恩恵を受けるだろう」と強調する。

一方、観光案内所勤務の40代女性は「人出が多いのは週末だけで、以前の状態には遠く及ばない」と嘆息し、交流拡大に期待を寄せた。2019年に福建省から約80万人の中国人が船で金門島を訪れたが、24年は約14万人にとどまった。

◇経済で取り込み図る習政権

中台の「交流」には、常に政治的思惑が付きまとう。中国共産党の習近平政権は台湾の民進党政権を「独立派」と敵視してきた。19年に台湾への個人旅行を禁止し、20年にはコロナ禍を理由に団体旅行も禁じた。

しかし、中国当局は昨秋、国民党の要望に応じる形で、福建省住民の金門島観光を再開した。10月上旬の国慶節(建国記念日)の大型連休直前で、経済的利益をてこに同党支持者が多い島民の取り込みを狙った決定だった。

さらに中国側は今年1月、福建省と上海市の住民を対象として、台湾への団体観光を近く再開すると発表した。トランプ米大統領の就任直前で、台湾が「見捨てられる」との観測も出る中、民進党政権に揺さぶりをかけた。

北京で5日から開かれている全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で、習政権は政府活動報告で台湾との統一を目指す決意を改めて表明。中台の「経済・文化交流」による融合促進を掲げた。

◇「共産党の支配望まず」

台湾の頼清徳総統は昨年8月、就任後初めて金門島を訪れた。台湾海峡の平和を訴えるとともに「われわれは(中国)共産党の支配を望まない」と強調。軍事的圧力を強める習政権に対して断固とした姿勢を示した。

緊張が高まる中、島内のムードは中国からの客を全面的に「歓迎」しているわけではないようだった。国民党系の県議会関係者は、中台交流について「今は敏感な時期だ」としてコメントを避けた。

タクシー運転手の20代女性は「ここは台湾本島から200キロも離れていて、どうしても国民党の声が大きくなる。ただ、中国からの客は交通規則を守らないなどトラブルが多く、良いことばかりではない」と語った。コロナ禍前、中国国旗と台湾旗が共に掲げられていた観光スポットの商店街にはいずれの旗もなかった。

【時事通信社】 〔写真説明〕中国福建省と台湾が実効支配する金門島を結ぶフェリー=2月27日、福建省アモイ 〔写真説明〕金門島北部の砲台で定時に行われる大砲のショー=2月28日、台湾金門県 〔写真説明〕中国軍の侵入を防ぐために海岸に設置された障害物=2月28日、台湾金門県

2025年03月11日 07時06分


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