イスラエルとレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの停戦が発効して27日で半年。イスラエル軍は国境に近いレバノン南部の拠点5カ所でなお駐留を続け、空爆も実施している。レバノン政府は南部でヒズボラの武装解除を進め、既に拠点の9割以上を解体したとされるが、イスラエルは警戒を緩めていない。
◇カリスマ、武器失う
昨年11月の停戦合意では、ヒズボラはレバノン南部から撤退し、レバノン軍が南部に展開。イスラエル軍も地上侵攻した南部から撤収する取り決めになっている。これまでのところ、懸念されたレバノン軍とヒズボラの衝突は伝えられていない。
ヒズボラの最高指導者カセム師は「ヒズボラはレバノン軍と緊密に連携する」と述べ、停戦維持に取り組む姿勢をアピールする。ただ、必ずしも武装解除を自発的に進めているのではなく、目下、組織の弱体化で対イスラエル武装闘争を継続する力を失っているのが実情だ。
ヒズボラは停戦前、イスラエル軍の攻撃でカリスマ的指導者のナスララ師を失い、その後継候補も殺害された。また、隣国シリアでは昨年12月、ヒズボラの後ろ盾であるイランと関係が深かったアサド政権が崩壊し、イランからヒズボラへの武器供給が断絶。在レバノンのシンクタンク、カーネギー中東センターのマイケル・ヤング氏は「ヒズボラは、イスラエルに攻撃したくてもできないほど弱体化した」と分析する。
◇将来に火種
レバノンのアウン大統領は「全ての武器を国家の管理下に置く」と述べ、軍事力で正規軍をしのぐとされたヒズボラの武装解除をさらに進める意向だ。もっとも、ヒズボラは完全な武装解除には反発しており、将来の火種は残されたままだ。
レバノン大統領府の高官は、対イスラエル闘争の必要性を訴えるヒズボラに武装解除を認めさせるには、レバノンの政府や軍がイスラエルの敵対行為に対処できることを示さなければならないと指摘。まずはイスラエル軍の撤退を実現させることが重要だと述べた。
イスラエル軍は現在、レバノンのみならずシリアの南部にも駐留し、同国への空爆も行っている。イスラエルの安全保障専門家オル・イサハル氏はイスラエル軍の当面の狙いについて、将来的にもイランがレバノンに介入できない「新たな現実」をつくり出すことだと解説する。
このためイサハル氏は、ヒズボラの再興を警戒するイスラエルは「国際的な合意の下、レバノン南部に両国間の緩衝地帯が設置されるまで駐留を続ける」と予想。ただ、レバノン政府は実質的に国土の一部を失う形となる緩衝地帯の常設化を望んでおらず、実現は容易でない。(ベイルート時事)。
【時事通信社】
〔写真説明〕イスラエル軍によるレバノン空爆で破壊された建物=22日、ベイルート南郊
〔写真説明〕レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者カセム師=2月16日、撮影場所不明。ヒズボラ系テレビの映像より(AFP時事)
〔写真説明〕イスラエル軍が5月に実施したレバノン空爆で破壊された建物=24日、南部ナバティエ
2025年05月27日 12時46分