SNSを通じて政治意識や社会観を形成している層が、リアルの選挙結果に大きな影響を及ぼすようになっている。インターネットの世界に入り、退職や出産、新型コロナウイルス禍を機に動画で気付きを得た人も少なくない。既成政党不信を背景に「世直し感情」を高めた有権者が参政党に吸い寄せられ、大きなうねりとなっている。
◇還暦過ぎの学び
「僕の受けた教育は、まさに『自虐史観教育』。本当の日本を知ったのは還暦を過ぎてからです」。参政党のイメージカラーであるオレンジ色のTシャツ姿で東京都内の街頭演説に参加した男性(67)は、チラシを配りながら「日本は素晴らしい国だと、皆さんに広めたい」と語った。
参政党を知ったのは前回2022年の参院選。忙しさから解放され、日本について学び直していた頃だ。「正しい歴史を子どもたちに教え、誇りある国の一員だという思いの若者を育てていく」と訴える候補者の主張にユーチューブで触れた。「今までの価値観ががらりと変わるインパクトがあった」と振り返る。
定時制高校を経て大手損保会社に約40年勤務した。小泉純一郎首相(01~06年)や民主党政権(09~12年)を何となく支持していた。「当時は分からなかった。ネットで発信してくれる人がいて、初めて分かるんじゃないですか」
自民党員だった時期もある。今は月額1000円を納める参政党員。自民党と違い、党員の声を聞き入れる方針が魅力という。夜中まで仲間とミーティングする。
新聞やテレビは見なくなった。一方で政治への関心は高まる。最近はトランプ米大統領の動向が「最高に面白い」と笑顔を見せた。
◇きっかけはコロナ
参院選公示を控えた6月下旬の東京・有楽町。参政党の演説会に訪れた40代の建設業の男性はコロナ禍のさなかに政治に興味を持った。国が進めたワクチン接種に警鐘を鳴らすSNSの動画を見て、「自分が『おかしい』と思っていたことを参政党が言っている」と胸に刺さった。それまで支持政党はなかった。
ワクチンや食品添加物の健康への影響に前から不安があった。他の動画も見るうちに「疑問だった点と点が線でつながる感覚」を覚え、「応援できるのはここしかない」と確信した。
政府の公式見解は信用していない。誰かに政治を任せていては高校生の子どもの未来が閉ざされる、との危機感が原動力。「政治家はポケットにカネを入れることしか考えていない」と話す。
東京都中央区に住む40代の主婦はインスタグラムで参政党を知り、今回、初めて街頭演説に足を運んだ。子どもの誕生後、政治が気になるようになった。
テレビや新聞は広告収入で成り立っていると思うので信頼しない。政治の情報源はSNS。同年代の主婦仲間も同じだ。「SNSなら党の発信を直接見られる。将来を考えた時、いろいろな情報が手に入る」。まだ幼い子を抱き、スマートフォンを向けながら演説に聴き入った。
◇それぞれの世界
参政党は20年結党。2年後の参院選比例代表で約177万票を取り、国政に進出した。まだコロナ禍は続いており、投開票2日前、安倍晋三元首相が銃撃され死亡した。
ある自営業の男性(54)は安倍氏支持だったが、参政党員になった。街頭で自らマイクを手に取ることもある。今回の参院選で神谷宗幣代表の露出が増えるにつれ、ビラを受け取る人が増した実感がある。「言いたいことをスパッと言い切る分かりやすさ」が支持される理由だと語る。
「日本人ファースト」など独自の主張はSNSで拡散し、時に炎上し、反感や対立も生む。
国民民主党を支持する都内の会社員男性(50)は「参政党の憲法草案は『国民主権』の言葉を外している。過激で、危険で、ちょっと論外」と切り捨てた。参政党の街頭演説にはアンチの立場の人も集まり、「陰謀論者」などと書いた紙を掲げ、ヤジを飛ばす。
駅頭で参政党のビラを配っていた50代の歯科医師の女性は、行き交う人に「カルト」「大丈夫?」と声を掛けられた。「応援してくれる人もいるけど、大きく分かれます。ユーチューブのチャンネルごとに別の世界があると思う」。
【時事通信社】
〔写真説明〕子どもを抱え、参政党の街頭演説を聴く女性=6月25日、東京都千代田区(一部、画像処理してあります)
〔写真説明〕参政党の街頭演説に集まった人たち=6月25日、東京都千代田区
2025年07月13日 07時02分