政府が地方創生の取り組みを本格化させてから10年が経過したが、地方の人口減少は加速し、東京一極集中に歯止めはかかっていない。参院選で各党の論戦も深まったとは言い難く、担い手不足が深刻化する地方の将来にどう対応するか、施策の実効性が問われている。
◇離れる若者と女性
政府が地方創生に着手したのは、石破茂首相が初代担当相に就任した2014年。東京圏(東京、埼玉、千葉、神奈川の4都県)と地方の転出入を均衡させる目標を立て、各自治体も移住者の獲得や子育て支援などに取り組んできた。
ただ、地方の若者が進学や就職で東京に流入する構図は大きく変わっていない。総務省の調査によると、24年の日本人の東京圏の転入超過数は約12万人。約11万人だった14年当時の水準を上回っている。
政府は、これまでの自治体の施策が移住促進などに偏り「自治体間で人口の奪い合いにつながった」と総括。地方に魅力的な仕事がなく、性別で役割を分担する意識が残ることを背景に、若者や女性が離れていると分析した。
石破政権が今年6月に策定した「地方創生2.0」の基本構想では、今後10年間の施策の方向性について、当面人口減少が進む中でも地域社会を維持する方針を明示。居住する自治体以外の地域と継続的に関わる「関係人口」を1000万人に拡大する▽東京圏から地方に移住する若者の数を倍増させる―といった目標を掲げた。
◇分権推進、政府機関移転も
参院選で自民党は、基本構想に沿った施策を公約に並べる。地域の担い手確保に向け、関係人口の拡大を図るほか、男女間の賃金格差を是正するなどし、「若者や女性にも選ばれる地域づくり」を掲げる。公明党は、インバウンド(訪日客)の地方誘客や地域公共交通サービスの空白地帯解消を目指す。
立憲民主党や国民民主党は、地方分権を推進し、自治体の自主性を重視する方針を打ち出す。国と地方の税収配分を見直すなど、権限・財源の移譲を進めるとしている。
日本維新の会は「副首都」をつくり、中央省庁などの一部を東京から移すと明記。参政党も政府機関の移転を主張する。共産党やれいわ新選組は、地域経済を支える中小企業の振興を訴える。
ただ、党首討論会などではほとんど話題にならず、地方の将来像について各党の主張は見えづらい。首長からは「実効性ある地方創生にどう取り組むか、それぞれの施策を示してほしい」(広島県の湯崎英彦知事)といった声が上がっている。
◇地方の問題に関心を=識者談話
片山善博・大正大特任教授(地方自治論)の話
従来の地方創生は、どうすれば人口減少に歯止めをかけられるかを市町村ごとに考えようという姿勢だったが、「地方創生2.0」の基本構想は人口が減っても地域社会を維持できるようにしようというスタンスで合理的だ。なぜ若者、女性が地方を後にするかに着眼し、男女の賃金格差や「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」の解消、地方経済の生産性向上に向けてみんなで考えようというメッセージで、素直に受け取れる。
与野党が公約で打ち出した政策はどれも間違っていないと思う。ただ、ほとんど話題になっていない。国会議員の定数見直しにより、地方の定数が減り、地方の声が反映されにくくなっている影響もあるのではないか。物価高対策など目先のことも重要だが、人口がこんなに減って、日本自体の持続可能性も危ぶまれる。もっと地方の問題に関心を持ち、地道に取り上げ、国民に訴えてほしい。
【時事通信社】
〔写真説明〕地方創生について議論する政府の会議=6月13日、首相官邸
2025年07月12日 08時12分