参院選兵庫選挙区では直近の3回、自民党、公明党、日本維新の会が三つの議席を分け合った。しかし、地元の市長やコメンテーターとして知名度を高めた新人が無所属で参入し、情勢は一変。既存政党への不信やSNSを通じたうねりが目立った昨秋の県知事選の余韻を残す中、乱戦模様となっている。(敬称略)
◇「個人戦」
「政治は永田町や霞が関でやるものじゃない。地域の暮らしが政治そのものだ」。元兵庫県明石市長の泉房穂は公示後最初の日曜日となった6日、神戸市中心部の商店街でマイクを握った。
市長在任中、独自の子育て施策と市議や職員への暴言がたびたび話題に上った。選挙事務所には自身の等身大パネルや著書を並べ、「個人」を前面に出す。
2003~05年の衆院議員時代は旧民主党所属だったが、3月に参院選出馬を表明した際、「魅力的な政党がない」と断言。各党と一線を画した。
選挙戦をスタートしたのは瀬戸内海に浮かぶ人口20人程度の男鹿島。「光の当たりにくいところにこそ光を当てる」姿勢を示す狙いだ。「SNS選挙」を意識し、動画発信にも余念がない。
◇奪い合い
自民は現職加田裕之を擁立した。旧安倍派裏金事件の関係議員。政権への逆風はやまず、街頭に立つ国会議員らは一様に険しい表情で「厳しいどころではない」などと訴え、支持を呼び掛ける。
公示日に首相の石破茂が駆け付け、その後も農林水産相の小泉進次郎が入った。「泉さえいなければ…」。陣営関係者はやり場のない気持ちをぶちまけた。
再選を目指す高橋光男を抱える公明も危機感が強い。代表の斉藤鉄夫は第一声の地に神戸市を選び、「全国一の激戦区だ」と声をからした。
県東部の尼崎市は公明の「牙城」として知られるが、先月の市議選で党候補の得票総数は4年前から15%ほど減った。陣営は自民の推薦を得たこともあり、その支持層に食い込みを図る。
「今回は公明に入れる」。自民関係者が地元企業に支援を求めたところ、こんな答えが返ってきた。既に公明サイドの手が回っていたといい、自民県議は「公明との争いだ」と顔をしかめた。
維新は、知事の斎藤元彦が内部告発された問題を巡り情報を漏えいしたとして県議が除名や離党勧告の処分を受け、打撃となった。新人の吉平敏孝は当初、ビラ配りにも苦戦。関係者は「きつい戦い」と話す。
立憲民主党は独自候補擁立を見送り、県連が泉を推薦した。
◇新興勢力
苦しむ既存政党を尻目に勢いを見せるのが参政党と国民民主党。参政は尼崎市議選でトップ当選を果たした。参院選に立候補した新人藤原誠也も自民や維新の票を相当程度奪うとみられている。
国民民主は泉の支援を検討していたが、「魅力的な政党がない」発言に代表玉木雄一郎らが反発。元経済産業省職員の多田ひとみを立てた。参政も国民もSNSでの拡散を武器とする。自民関係者は「どこまで伸びるか読めない」と漏らす。
政治団体「NHK党」党首の立花孝志も参戦した。昨年11月の知事選では立花が火を付ける形で、真偽不明の情報や中傷がSNS上に飛び交い、斎藤再選を後押しした。参院選では泉にも照準を合わせ、立民の県連推薦に触れて「無所属じゃない。実質上は立民だ」と語っている。
◇参院兵庫選挙区立候補者
来住
文男
65
元会社員
社新
浦木
健吾
42
法律事務所職員
諸新
藤原
誠也
37
建築事務所代表
参新
加田
裕之
55
元法務政務官
自現(1)
高橋
秀彰
42
農家
諸新
多田ひとみ
45
元経産省職員
国新
前田
実咲
33
会社役員
諸新
米村
明美
66
元大学教授
れ新
高橋
光男
48
元農水政務官
公現(1)
推(自)
立花
孝志
57
元葛飾区議
諸元(1)
吉平
敏孝
44
元会社員
維新
泉
房穂
61
元明石市長
無新
金田
峰生
59
元兵庫県議
共新
(注)敬称略、届け出順。年齢は投開票日(20日)時点。社=社民党、諸=諸派、参=参政党、自=自民党、国=国民民主党、れ=れいわ新選組、公=公明党、維=日本維新の会、無=無所属、共=共産党、新=新人、現=現職、元=元職、推=推薦。丸数字は参院当選回数。
【時事通信社】
〔写真説明〕参院選兵庫選挙区候補の演説に耳を傾ける聴衆=4日、兵庫県姫路市のJR姫路駅前
2025年07月12日 08時13分