自民党の高市早苗総裁の「ワーク・ライフ・バランスを捨てる」との発言が波紋を広げている。重責を担う「強い覚悟を感じた」との評価がある一方、働き方改革の逆行につながるとの懸念も喚起。高市氏は総裁選で、労働時間規制の緩和に意欲を示しており、首相に就任した場合、大きな論点となる可能性もある。
発端は4日の総裁選出を受けた演説だ。高市氏は、党所属議員に対して「馬車馬のように働いてもらう。私自身もワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てる」と宣言。続いてあいさつした石破茂首相は「あそこまで言われると『大丈夫か』という気がしないわけではない」と苦笑しつつ、「己を捨てて全身全霊、国家国民のため、との決意の表れだろう」とフォローした。
高市氏は翌5日、記者団に「皆さまはワーク・ライフ・バランスを大事にしてほしい」と声を掛けた。国民に強いる意図はないとアピールする狙いも透けるが、SNS上では「影響力の大きいトップリーダーの発信として疑問だ」などと批判が続出。過労死弁護団全国連絡会議は声明で「古くからの精神主義を復活させる」と抗議、発言の撤回を求めた。
政府は「仕事と生活の調和」を掲げ、残業抑制などの改革を推進してきた。しかし、人手不足に悩む経済界が見直しを要望。与野党でも呼応する動きが出始めている。
高市氏自身も、総裁選の論戦などで「働き方改革の行き過ぎの部分は確かに出てきている。いま一度、検証しなければいけない」と指摘。「心身の健康維持と本人の選択を前提に、(規制を)少し緩和する方法がないか検討する」と踏み込んだ。
7月の参院選で、自民は「働きたい改革」、公明党は「もう少し働ける社会」を、それぞれ標ぼう。一方、立憲民主、国民民主両党などは働き方改革を推進する立場を取っている。
健康維持と人手不足解消をどう両立させるのか。関連法改正などの動きが具体化すれば、世論も巻き込み激しい議論が交わされそうだ。
【時事通信社】
〔写真説明〕自民党の高市早苗総裁=4日、東京・永田町の同党本部
2025年10月13日 19時10分