
長男が農家の経営を継ぎ、補助的な作業や家事・子育てはその妻が担う。そんな固定化された性別役割分業から「得意」を生かした分業への転換で、地域を支える農業に新しい風が吹き始めている。まだ圧倒的少数派とはいえ、女性の農業経営主や自治体の農業委員会トップも生まれ、販路の開拓や耕作放棄地の解消へ挑戦を続ける。
「農業は、女性の発想が生かされていない真っさらな世界。チャンスがある」。コメや野菜、加工品の生産・販売を手掛けるエグチライスファーム(千葉県柏市)の代表を務める江口さやかさん(48)は、農地の規模拡大や海外市場開拓への挑戦を見据え、こう強調する。
農家の長男である夫・博幸さん(57)にさやかさんが提案し、2017年に農業法人を設立。「一番やりたい人がやった方がいい」という夫の後押しもあって代表に就任。消費者と結び付きたいとインターネット販売を始めた。職人かたぎの夫が農作業に従事し、さやかさんは農作物や農産加工品の販売に力を入れている。
大学卒業後、旅行会社や商社などに勤めたさやかさんの目には、地域の集まりが依然として男性中心だったりと、農業を取り巻く環境は「非常に閉鎖的」に映る。全国で女性が経営主の個人農業経営体の割合は24年時点で6.8%にとどまる。「それぞれ価値観も得意なことも違う。男女両方が同じくらい関わっていい」と考えている。
埼玉県東松山市の農業委員会で会長を務める久保田節子さん(70)は、耕作放棄地の発生を防ぐための農地集積で実績を挙げた。アンケート調査で地域住民の意向を探りつつ、メーカーや測量事務所での勤務経験を生かして図面や説明資料の作成も自らこなし、住民が納得できる提案をまとめ上げた。「今までやってきたことがすべて役に立った」と振り返る。
「女性だからという意識は全然ない」ものの、「マンネリ化を打破するには、やはり女性の力は必要」とも指摘。近隣の9市町村の女性委員でつくる連絡会では、各委員会の改選に併せ、市町村長に女性登用を求める活動を行っている。
国連は26年を「国際女性農業従事者年」と定め、農業分野での男女格差の是正を目指している。全国1693市区町村に設置された農業委員会で、女性委員の比率はわずか14.4%(24年度)。日本でも意思決定の場に女性を増やすことができるかが問われている。
【編集後記】農業の将来には、担い手不足という重い課題が付きまとう。意欲ある新規就農者の挑戦を阻むものはないか。他産業に引けを取らない所得の実現はもちろんのこと、性別役割分担意識を取り除く工夫も重要だ。人それぞれの「得意」が生きる土壌がつくられ、農業の未来が前向きなものに変わってほしい。(時事通信経済部記者・工藤玲)。
【時事通信社】
〔写真説明〕エグチライスファームの代表を務める江口さやかさん(右)と夫の博幸さん=2月9日、千葉県柏市
〔写真説明〕埼玉県東松山市の農業委員会で会長を務める久保田節子さん=2月10日、同市役所
2026年03月07日 14時38分