国境対立でタイに「内政干渉」=威信誇示狙いか―カンボジア



【バンコク時事】カンボジアが国境問題で対立するタイに強硬方針で臨み、事態収拾を図ったタイのペートンタン首相が不用意な発言で職務停止に追い込まれた。「内政干渉」も辞さないカンボジアの姿勢について、経済成長を続ける同国が国家の威信を内外に誇示するのが狙いとの指摘が出ている。

◇自国軍批判し職務停止

タイ、カンボジア両国軍は5月、未画定の国境付近で衝突し、カンボジア兵1人が死亡した。双方は国境検問所を閉鎖して人の移動や物流を制限。現地の日本企業にも影響が出ている。

ペートンタン氏は衝突後、カンボジアの事実上の最高権力者である前首相のフン・セン上院議長と電話で対応を協議。ところが、録音した音声をカンボジア側が流出させ、ペートンタン氏がタイ国軍を批判するなどしていたことが発覚した。

タイ国内ではペートンタン氏への批判が強まり、連立政権から保守系の有力政党が離脱。憲法裁判所は今月1日、上院議員らが提出した首相失職請求を受理し、判決が出るまで首相職の一時停止を命じた。フン・セン氏は演説で「タイの首相は3カ月以内に交代するだろう。新しい首相と国境問題を解決する」などと主張した。

こうしたカンボジアの動きについて、外交筋は「内政干渉と言われても仕方がない」と指摘する。タイ国軍の報道担当者は、記者会見で「カンボジアは複雑で巧妙な計画を立てている。緊張状態をつくり出し、政治にまで拡大させて政府に不信感を抱かせ、タイ社会を分断させた」と不快感をあらわにした。

◇使命は「真の独立」

2023年まで38年間も首相を務め、息子を後継に据えたフン・セン氏は、1990年代に終結した内戦で疲弊した国の復興を進めた。近年は独裁体制を強化して反対派の政治家やメディアを弾圧。2010年代以降は中国に傾斜して支援や投資を呼び込み、経済成長を成し遂げた。

タイとカンボジアは複数の国境問題を抱える。08~11年にはカンボジアの世界遺産プレアビヒア寺院遺跡周辺の土地を巡って戦闘が起き、死傷者が出た。それ以外の国境未画定地域は、主にタイが事実上支配している。

カンボジア情勢を長く取材してきたタイ人ジャーナリストのスパラック氏は「国境未画定地域をカンボジア領とし、タイから抑圧されているという国民の意識を払拭するのが、フン・セン氏の狙いだ」と分析。隣国に対し一歩も引かず「自分の代でカンボジアを『真の独立国家』にすることを使命としている」と解説した。

【時事通信社】 〔写真説明〕タイとの国境地域を訪問し、演説するカンボジアのフン・セン上院議長(中央)=6月26日、北部プレアビヒア州(同氏のフェイスブックより・時事)

2025年07月07日 12時10分


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