防衛費増、与野党で濃淡=安定財源も課題―「深掘り・日本の課題」【25参院選】



中国の軍備増強や北朝鮮の核・ミサイル開発など、日本の安全保障に対する脅威は急速に増している。20日投開票の参院選で、主要政党は防衛力強化の必要性を訴えるが、防衛費増額を巡る主張には濃淡がある。裏付けとなる安定財源の確保も課題だ。

◇「世界有数の厳しさ」

「(日本周辺は)世界の中でも有数の厳しい安保環境だ」。石破茂首相(自民党総裁)は公示前日の2日、日本記者クラブ主催の党首討論会で、中国や北朝鮮を念頭にこう指摘。防衛予算について「国民に理解してもらい、増額していくのは当然の国の責任だ」と強調した。

中国は日本周辺で挑発的な行動を繰り返す。6月には空母2隻が太平洋に同時進出したことが初確認され、艦載戦闘機が海上自衛隊哨戒機に異常接近する事案も発生。北朝鮮が推し進める核・ミサイル開発は、地域の緊張を一段と高めている。

政府は2023~27年度の5年間で約43兆円を投じ、防衛力の抜本的強化に取り組む計画。防衛費を27年度に国内総生産(GDP)比で2%に引き上げる目標に対し、25年度の進捗(しんちょく)は1.8%だ。

こうした現状を踏まえ、自民と立憲民主党は参院選公約に「防衛力を抜本的に強化する」と掲げた。ただ、立民は「金額ありきではなく、抑制的に実務的に積み上げるべきだ」(小川淳也幹事長)として、GDP比目標を前提とした防衛費の増額には慎重姿勢だ。

日本維新の会は「GDP比2%まで増額」を主張。国民民主党は「必要な防衛費を増額する」と訴える。一方、共産党は政府計画を「大軍拡」と批判。れいわ新選組も計画中止を求めている。

◇増税是非で対立

防衛力強化の財源に関し、政府・与党は法人、所得、たばこ各税の増税で1兆円強を賄う方針。このうち、法人税とたばこ税は26年4月から引き上げる予定だが、所得税は時期が決まっていない。

これに対し、立民は「防衛増税は行わない」との立場。国民民主も増税以外の財源を探るよう主張するが、いずれも参院選公約では代替財源を示していない。維新は「国民の負担増に頼らない」とし、外国為替資金特別会計の活用などを財源に想定する。

政府の防衛力整備計画は折り返しの3年目を迎え、次期計画を見据えた議論が今後本格化する。25年度予算の防衛関係費は過去最大の8.7兆円。安保環境の変化を踏まえれば、今後も増え続ける可能性が高い。

トランプ米政権は、日本を含むアジアの同盟国に対し、北大西洋条約機構(NATO)が決めたGDP比5%目標と同水準の防衛費増額を求める意向。今後圧力が強まるのは必至で、将来的な安定財源の確保は、さらにハードルが上がりそうだ。

一方、防衛力の中核を担う自衛官の処遇改善については自民、立民、維新、国民民主の各党が取り組みの強化を掲げた。



◇防衛力強化、日本自身の判断で

森聡・慶応大教授(現代国際政治)の話

2022年の安全保障関連3文書発出以降の国際情勢などの変化を踏まえ、日本自身がどの程度まで防衛力を強化するのか判断すべきだ。日本の防衛力強化を加速しながら日米防衛協力と同志国協力を促進すれば、防衛費の増額は必要ではないか。最新の戦略環境分析や、戦い方の更新要否などを検討し、予算と財源を具体的に割り出す必要がある。

防衛力の整備を着実に進めるには安定財源が必要で、それに必要な税収の割り当てが議論されるべきだ。その際、ロシア・ウクライナ戦争からも分かる通り、抑止が破れれば、膨大な人的犠牲と財政的コストがかかる事実を踏まえることが重要だ。

米国は代替のきかない同盟相手だ。中国や北朝鮮に対する抑止力を強化するため、新種の共和党政権と協力関係を築くのに必要な知恵や取り組みを、(与野党は)競い合いながら打ち出してほしい。

【時事通信社】 〔写真説明〕太平洋上の中国軍空母から発艦し、海自機に異常接近したJ15戦闘機=6月8日(防衛省提供)

2025年07月10日 20時58分


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