中国で細菌兵器開発を行った旧日本陸軍の関東軍防疫給水部(731部隊)に所属し、昨年亡くなった元隊員が平和の尊さを訴える手記を残していたことが13日、分かった。「戦争に聖戦はあり得ない」「平和こそが人類の至宝」などと記されており、長女は「平和に対する父の思いが詰まっている」と話している。
手記を残していたのは、昨年5月に101歳で亡くなった高知県四万十市の谷崎等さん。戦時中、旧満州(中国東北部)にあった731部隊ハイラル支部に所属し、細菌兵器の開発用とみられるネズミの飼育などに携わっていた。
手記の題は「私は七三一部隊の隊員だった。」で、原稿用紙4枚に手書きでしたためられていた。谷崎さんは戦後、同県の中学で教壇に立っており、手記は県の退職教員らでつくる団体が2008年に自費出版した非売品の本への寄稿文だった。80代の時に書かれたとみられ、遺族が遺品を整理する中で見つかった。
手記にはハイラル支部に中国人女性が連行されてきたことや、元隊員から聞いたとみられる人体実験の様子などが書かれている。「戦争は実に非道であり悲惨」「戦争は人間の性格を変質させる」と指摘した上で「蛮行を蛮行と思わなくなる。この限りに於(お)いていかなる戦争にも『聖戦』ということはあり得ない」と強調した。
731部隊の隊員には敗戦に伴う撤退時、活動について厳しいかん口令が敷かれた。谷崎さんは手記の中で、元隊員らが住所を知られるのを恐れ年賀状も出せず、罪悪感にさいなまれながら戦後を生きたことを紹介。「戦争だけは絶対に起こしてはならない。平和こそが人類の至宝であることを肝に銘じなければならないと思う」と結んだ。
長女佐千代さん(73)は「父の平和への意識は強く、『今の日本は平和過ぎる』との言葉を聞いた時は『平和過ぎるなんて言葉はない。平和こそ大事だ』と怒っていた。手記には父の思いが詰まっていると思う」と語っている。
【時事通信社】
〔写真説明〕731部隊ハイラル支部に所属した谷崎等さんが残した手記。「平和こそが人類の至宝」と記されている=6月15日、高知県四万十市
〔写真説明〕731部隊ハイラル支部に所属した谷崎等さんが残した手記について話す長女佐千代さん=6月15日、高知県四万十市
2025年08月14日 12時39分