「哀しみの池」。戦後、子どもの遊び場になっていた土崎空襲の痕をテーマにした歌の題名だ。歌は毎年14日、秋田市で開かれる追悼式典で流されてきた。作詞したのは同市出身の伊藤昇さん(79)=横浜市。「なぜ戦争が起きたのか考えてほしい。風化をとどまらせたい」と訴える。
伊藤さんは子どもに向けた詩を作り続け、2007年から追悼式典で朗読している。「哀しみの池」ができるきっかけとなったのはその前年、高校の同級生だった田口徹さん(80)=千葉市=との歌作りだった。伊藤さんの詞に、田口さんが曲を付けて歌った。08年に完成して以降、式典で流れるテーマ曲となった。
題名となった池は、伊藤さんが小学生時代に「爆弾の池」と呼び、遊んだ池だ。爆撃でできた直径数メートル~十数メートルのため池で、友人といかだを浮かべ、釣りをした。既に終戦から約10年がたっていたが、攻撃目標にされた製油所があった港には、不発弾を処理する掃海艇の姿もあった。市内のあちこちに空襲の傷痕が残っていた。
池はもうない。いつまで残っていたのかも分からない。伊藤さんは歌詞に「形も記憶も
埋め立てられて
忘れ去られた
哀しみの池」とつづった。
今年5月、これまで式典で朗読した詩を中心にした詩集が刊行された。伊藤さんは「戦後80年で少しでも伝われば」と意図を語る。「戦争を肯定する人も、平和を否定する人もいない。それでも戦争は世界で続いてる。なぜなのか考え続けなければいけない」と強調する。
田口さんは「哀しみの池」の作曲以降、平和や反戦の歌を全国を回って歌うようになった。今後も自宅がある千葉市の行事で歌い、平和を訴える考えだ。
【時事通信社】
〔写真説明〕土崎空襲を題材にした歌「哀しみの池」を作詞した伊藤昇さん=5月22日、横浜市
〔写真説明〕土崎空襲を題材にした歌「哀しみの池」を作曲した田口徹さん=4月17日、千葉市
2025年08月14日 12時13分