【バンコク時事】タイで保守派「タイの誇り党」党首のアヌティン新首相が率いる少数与党の政権が近く発足する。保守派と革新系、タクシン元首相派の3勢力が緊張関係にあり、専門家は「三国志状態」と指摘する。各勢力は早ければ来年実施される下院(定数500)総選挙を意識して激しい駆け引きを繰り広げる見通しで、不安定さをはらむ船出となる。
2024年から連立政権を率いたタクシン派「タイ貢献党」のペートンタン前首相は先月、カンボジアとの国境対立を巡る失言により憲法裁判所の判決で失職。失言を受けて6月に連立政権から離脱した誇り党のアヌティン氏が今月5日、下院の投票で過半数を獲得して首相に選出された。
アヌティン氏は最大野党の革新系「国民党」が要求する憲法改正に向けた国民投票の実施と早期解散を受け入れ、支持を取り付けた。ただ国民党は野党にとどまる。誇り党は別の保守派の親軍政党などと連立を組む予定だが合計議席は過半数に届かない。
政権と国民党の関係は微妙だ。国民党は、憲法改正により首相失職判決や政党解党処分という政治介入を繰り返す憲法裁の改革を目指す。誇り党を支持する王室や軍といった保守層は憲法裁に強い影響力を持つため、アヌティン政権が国民党の改正案に同意するかは不透明だ。
下野した貢献党はアヌティン氏を支持した国民党を批判しており、野党として両党が連携するかは見通せない。一方で、誇り党とはもともと東北部で地盤を奪い合う競合関係にあり、ペートンタン氏の失言などを契機に対立に発展した。貢献党の実質的なオーナーでペートンタン氏の父であるタクシン氏は9日、最高裁判所に禁錮1年を言い渡されて収監され、求心力の低下も指摘される。
アヌティン氏が国民党との約束通り4カ月以内に下院を解散すれば、来年3月ごろには総選挙が実施される。解散しない場合でも27年5月には下院議員の任期(4年)を迎え、総選挙が行われる。
タイ政治に詳しいタマサート大の水上祐二客員研究員は「与党も野党も選挙を意識して成果のアピールやライバル陣営への非難合戦を激化させるだろう」と指摘した。
【時事通信社】
〔写真説明〕タイのアヌティン首相=7日、バンコク(EPA時事)
2025年09月14日 07時00分