【ブリュッセル時事】ウクライナ侵攻後に凍結されたロシア資産の活用を巡り、欧州連合(EU)内で議論が活発化している。戦争の長期化でウクライナ支援に要する資金が膨らんでいる上、欧州への拠出に消極的なトランプ米政権の姿勢もあり、新たな財源確保の必要性が高まっていることが背景にある。
「これはロシアの戦争であり、支払うのはロシアだ」。EUのフォンデアライエン欧州委員長は今月10日の施政方針演説で、凍結資産を担保にウクライナに融資する「賠償ローン」構想を打ち出した。ウクライナはロシアが賠償金を支払うまで返済する必要がなく、支払われない場合でも資産を凍結し続けることが可能な仕組みだ。
EU内には約2000億ユーロ(約35兆円)のロシア資産が凍結され、その大半はブリュッセルに拠点を置く債券決済機関「ユーロクリア」が保管している。ただ、外国政府の資産を一方的に没収することによる法的リスクや通貨ユーロの信認低下などへの懸念から、これまでは利子を活用した融資にとどまっていた。
EUは、賠償金による返済を前提に、凍結資産の元本を担保に融資するという「創造的な資金調達策」(英誌エコノミスト)を考案。形式上は資産没収を伴わないことから、これまで慎重姿勢を貫いてきたドイツのメルツ首相も支持に回り、賠償ローン構想の実現性が一気に高まった。
一方、ロシアは以前から「資産没収は窃盗だ」と激しく反発しており、EU内にも慎重論は根強い。EUは10月下旬の首脳会議での正式決定に向けて構想を協議する予定だが、ロシア寄りのハンガリーが反対する可能性もあり、先行きはなお不透明だ。
【時事通信社】
〔写真説明〕欧州議会で演説するフォンデアライエン欧州委員長=10日、仏ストラスブール(EPA時事)
2025年09月29日 16時38分