
「フォロワー(追随者)ではなくパイオニア(先駆者)であれ」。30年以上かけて極小の穴が無数に開いた「金属有機構造体(MOF)」を開発した京都大の北川進特別教授(74)。新しい学問分野を開拓しようと、周囲からの酷評をものともせずに地道に研究を続けた強い意志がノーベル賞受賞につながった。
普段はユーモアがあり、気さくな人柄で知られる北川さん。同賞受賞決定後の10月、松本洋平文部科学相を表敬訪問した際も、神妙な表情で研究者支援の重要性を説きつつ、「MOFは皆さんに親しみある財務省の略称と一緒です」と切り出し、周囲は笑いに包まれた。
教え子の京大の樋口雅一特定拠点准教授は「新調した私のパソコンを持ち上げて、『データが入っていないから軽い』と言われた」と振り返る。
MOF発見のきっかけは、近畿大で金属を組み合わせた化合物を研究していた1989年。構造計算のため、大型計算機を外部に開放していた京大に出向き、結果が出るまでの2~3時間で結果を予想していた。そこで、同行していた学生から「先生、(構造的に)穴が開いていますよ」と指摘されたのが「大きな着想の転換点になった」。
その後、MOFの合成に成功し、97年に論文を発表。しかし、「わざわざ有機物で高い物を作って何になるのか」と厳しく批判された。他の研究者から面と向かって「お前は間違っている」と言われたことも。それでも着実に研究を積み重ね、今やMOFは環境やエネルギー問題の解決につながる新材料として注目を浴びるまでになった。
教え子らには「他人の研究を追うのではなく、0から1を作るパイオニアになれ」と繰り返し語ってきたという。11月の記者会見では、初期のうちは研究が認められなくても「雨が降って地中に染み込み、最後は大河になっていくという評価軸で捉える必要がある」と指摘した。
50年以上の付き合いがある名古屋工業大の増田秀樹名誉教授は「よく『学問分野を作らないといけない』と言っていた。私も負けないように頑張ろうと思えるのは、彼がいるからだ」と話した。
【時事通信社】
〔写真説明〕京都大大学院生時代の北川進さん(左)(名古屋工業大の増田秀樹名誉教授提供)
2025年12月08日 07時03分