
広告大手電通の新入社員だった高橋まつりさん=当時(24)=が過労自殺してから、25日で10年となった。政府による「働き方改革」の議論は加速し、残業時間の上限規制を設ける関連法成立につながった。しかし今、政府は規制緩和を検討しており、労働者側からは反対の声が上がる。
高橋さんの母幸美さん(62)は2016年10月、死亡の経緯と労災認定を公表した。15年4月に入社した高橋さんは、労使協定を大幅に超える残業が続き、月約105時間に達したこともあった。上司から「君の残業時間は会社にとって無駄」と叱責されるなどしてうつ病を発症し、同12月25日に自殺した。
高橋さんは生前、ツイッター(現X)に「1日20時間会社にいると何のために生きてるのか分からなくなる」「何日も寝られないくらいの労働量はおかしすぎる」と心境を投稿。こうした経緯は社会に衝撃を与え、長時間労働の是正を求める世論が高まった。
厚生労働省東京労働局は電通本社(東京都港区)の家宅捜索に踏み切り、16年12月、高橋さんらに違法な長時間労働をさせたとして同社などを書類送検。これを受け石井直社長(当時)が引責辞任した。東京簡裁は17年10月、同社に罰金50万円の判決を言い渡した。
政府は当時、人口減少を見据え多様なワークスタイルを可能とする「働き方改革」を喫緊の課題としていた。安倍晋三首相(同)は同1月の施政方針演説で、高橋さんの過労自殺に触れ「二度と悲劇を繰り返さないとの決意で、長時間労働是正に取り組む」と言及した。
18年6月、「働き方改革」関連法が成立。残業時間を最大月100時間未満、年720時間などとする初の上限規制が罰則付きで設けられた。
しかし今年10月、高市早苗首相は労働時間の規制緩和の検討を指示。厚労省の審議会で議論されているが、過労で身内を失った遺族や労働者側からは「働き方改革を逆行させる」と反対が根強い。
同省によると、24年度の死亡や自殺、疾患などの労災認定は1304件で、過去最多に上った。
【時事通信社】
〔写真説明〕広告大手電通の新入社員で、10年前に過労自殺した高橋まつりさん(母幸美さん提供)
〔写真説明〕労災認定を受け、電通の新入社員だった高橋まつりさんの遺影と共に記者会見する母幸美さん=2016年10月、厚生労働省
〔写真説明〕電通などが書類送検され、記者会見で頭を下げる当時の石井直社長(中央)ら=2016年12月、東京都中央区
〔写真説明〕電通本社の家宅捜索を終え、段ボール箱や紙袋を運ぶ東京労働局の労働基準監督官ら=2016年11月、東京都港区
2025年12月25日 00時08分