都内病院、災害対応加速=地域連携や応援職員受け入れ―未治療死の懸念も・首都直下地震



首都直下地震の発生に備え、東京都内では災害医療体制の強化が進んでいる。病院の耐震化や災害派遣医療チーム(DMAT)の増員だけでなく、負傷者の広域搬送や地域連携の強化も課題だ。限られた医療資源で多くの命を救うには、地域を巻き込んだ減災対策が欠かせない。

都によると、地震で負傷した被災者は、病院の敷地内などに設けられる「緊急医療救護所」で医療の優先順位を決める「トリアージ」や応急処置を受け、搬送される。重症者は災害拠点病院や被災を免れた地域の医療機関に搬送され、容体が安定していれば災害拠点連携病院で治療を受ける。

ただ、発生直後は患者が最寄りの医療機関に殺到するとみられ、医療が逼迫(ひっぱく)して適切な治療につながらないまま命を落とす事態も想定される。被災病院の機能を補完するため、政府は医療コンテナや船舶による医療提供体制の整備に加え、DMATの平時からの訓練などが重要だと指摘。こうした課題を踏まえ、都内の病院では災害対応力の底上げを図っている。

聖路加国際病院(中央区)では、災害時に軽症者を地域の医師会が、重症者を同院が受け持つ体制を訓練で確認。中央区は海抜が低く、高潮や河川氾濫による洪水のリスクも指摘されることから、同院では区のハザードマップを活用し、想定される被害に応じた備えを随時見直している。大谷典生・救急科部長は「災害時の医療は一病院のみで完結しない。平時から行政や地域との連携が不可欠だ」と強調する。

都立広尾病院(渋谷区)は、酸素設備を備えた研修施設や外来スペースも活用し、重症患者を受け入れる方針だ。震度6弱以上の地震が発生した場合、職員は勤務先を問わず、半径6キロ以内で最寄りの都立病院に集まるルールで、同院では他院からの応援職員を受け入れる体制も整備している。

広尾病院ではDMAT研修などで職員のスキル向上を図る一方、地域住民に向けた減災活動にも力を入れる。小野川淳・減災対策支援センター医長は「病院の努力だけで救える命には限界がある。地域全体でけがをしない備えを重ねることが、より多くの命を救うことにつながる」と話した。

【時事通信社】 〔写真説明〕東京都立広尾病院の災害用備蓄倉庫=8月12日午後、渋谷区 〔写真説明〕インタビューに答える聖路加国際病院の大谷典生・救急科部長=7月24日、東京都中央区 〔写真説明〕インタビューに答える東京都立広尾病院の小野川淳・減災対策支援センター医長=8月12日、渋谷区

2025年12月20日 07時15分


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