「経験したことない事故だった」=被害者多数、優先順位付け救助―消防隊員が証言・軽井沢バス事故10年



未明の現場は想像を超える惨状だった。氷点下5度の中、汗だくで救助に当たった。長野県軽井沢町で2016年1月15日、スキーバスが崖下に転落し41人が死傷した事故は、発生から間もなく10年。地元の消防隊員が取材に応じ「経験したことのない事故。救助の優先順位に判断が問われた」と当時を振り返った。

「バスの横転事故発生、傷病者多数」。仮眠中の午前2時ごろ、消防本部からのけたたましい知らせが静寂を破った。小諸消防署長の高橋明則さん(56)は当時、同署の隊長だった。隊員4人と直ちに出動し、現場付近に着いたが、路上にあるはずのバスが見えない。先着隊の誘導についていくと、道路を外れて横転し、大きく折れ曲がった車体が視界に飛び込んできた。「大変な事故が起きた」と感じた。

「あれほど大規模な事故は初めてだった」という高橋さんはバスの周囲を歩き、ぼうぜんとした。「どこから手を着けたら良いのか分からなかった」。乗客の叫び声やうめき声が闇に包まれた山中に響いていた。「早く助けなければ」という思いだけが頭に浮かんだ。

車内に多くの乗客が残されていたが、救助は困難を極めた。ひしゃげた車体の内部は狭く、座席を切断しながら先に進んだ。衝撃で飛ばされた複数の乗客の手足が、誰のものか分からないほど絡み合っていた。外を流れる用水路に落ちないように座席にしがみつく人もいた。素手で地面を堀り、車体の下敷きになった乗客らを慎重に引き出した。

事故の衝撃と氷点下の寒さに見舞われ、乗客らの体力は急速に奪われていた。容体などを見極め、誰を優先するか判断しながら救助を進めた。

印象に残るのは、車体と地面に挟まれたまま救助活動をじっと見詰めていた乗客の姿だ。「自分より優先順位が高い人がいると思い声を上げなかったのかもしれない。切なかった」。後に、その乗客は後遺症なく生活していると知り、胸をなで下ろした。

車内での救助活動は約4時間に及んだ。「現場にいた隊員一人ひとりが自分の使命に従ってやるべきことをやった」と高橋さんは語る。静まり返った山中で助けを呼ぶ乗客の声と、「助けるから頑張れ」という隊員の懸命な呼び掛けは、今も強く記憶に残っている。

【時事通信社】 〔写真説明〕取材に応じる小諸消防署長の高橋明則さん=2025年12月25日、長野県小諸市

2026年01月11日 07時03分


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