
桜やチューリップ、ヒマワリなど色とりどりの季節の花は、見る人を楽しませ、心を癒やし、ときに優しく寄り添う。津波や原発事故で被害を受けた大地にも、植えた種が芽吹き、やがて花を咲かせた。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の発生から間もなく16回目の春を迎える岩手、宮城、福島を彩る花を取材した。
岩手県陸前高田市の津波が到達した地点をつないだ約170キロが桜色に染まる。津波の痕跡を後世に伝えようと、認定NPO法人「桜ライン311」は津波到達地点に1万7000本の桜の植樹を目指している。「過去の津波被害がもっと知られていれば、亡くならずに済んだ人もいたのでは」。代表理事の岡本翔馬さん(43)は悔しさをにじませる。人よりも寿命が長く、多くの人の記憶にも残り、愛着が持てるものが良いと、震災の教訓を桜並木で伝えようと考えた。復興とともに変わりゆくまちの景色の中で、桜並木が高い場所への避難を語り継ぐ。
宮城県石巻市の「雄勝ローズファクトリーガーデン」では、毎年バラの季節になると園内が華やかな香りに包まれる。震災で母を亡くした徳水利枝さん(64)が、津波に襲われた実家跡地で、母が好きだったホオズキなどを植えたのが始まり。その後、みんなが集まってゆっくり過ごせる場所をと、周辺住民やボランティアらと花を増やし造園した。園名のバラ以外にも、一年を通して季節ごとに表情豊かな植物が楽しめる。徳水さんは「どの季節も植物を介して人と人とがつながってきた。花が咲いていようがいまいが、この場所は用意しておかなきゃ」と園の手入れに力を入れる。
福島県大熊町大川原地区では毎年秋、ざるを伏せたような形にたくさんの小さな花が咲くざる菊が見頃を迎える。最初に育て始めたのは佐藤右吉さん(86)。震災や原発事故で避難生活を余儀なくされ、同県会津若松市の仮設住宅から町内パトロールで通う傍ら、自宅や庭の手入れを続けてきた。「町を訪れた人に楽しんでもらえたら」とざる菊を植えると、一時帰宅した住民が立ち寄ってくれるようになった。避難指示解除後、地区に戻った住民は少ない。それでも佐藤さんは「花っつうのは人を呼ぶから」と一人でも多くの帰還を願って町を彩り続ける。
【時事通信社】
〔写真説明〕津波到達地点の石碑と満開を迎えた浄土寺の桜。「桜ライン311」が植えた桜は昨年末時点で2420本となった=2025年4月、岩手県陸前高田市(桜ライン311提供)
〔写真説明〕宮城県山元町で満開となった約280万本のヒマワリ。津波の被害を受けた土地の地力増進を目的に、2018年から緑肥として植えられた=2025年7月
〔写真説明〕岩手県陸前高田市の川原川公園に咲くチューリップ。震災がきっかけで交流が続くオランダからチューリップの球根が贈られた=2025年5月
〔写真説明〕「ざる菊を褒められるとうれしいもんだ」と話す佐藤右吉さん=2025年11月、福島県大熊町
2026年02月24日 16時12分