
今や世界の経済覇権を握る米国。きっかけは、第2次世界大戦末期の1944年7月、連合国44カ国が米東部ニューハンプシャー州のホテルで、自由貿易と基軸通貨ドルを礎とする「ブレトンウッズ体制」に合意したことだった。米建国250年を迎える中、トランプ大統領は「米国第一」を掲げ、各国へ関税による威圧を繰り広げる。ブレトンウッズが掲げた国際協調は危機的状況に陥っている。
◇異例のスピード決定
「多くの歴史が詰まっている」。交渉の舞台となった同州ブレトンウッズのホテルで30年近くガイドを務めるジム・アーリーさん(72)は語る。大戦の戦禍を免れ経済超大国にのし上がった米国は、各国との協調を重視した交渉を推進。国際通貨基金(IMF)などの創設に加え、ドルを事実上、基軸通貨と定める協定をまとめ上げた。ドルが、名実ともに世界唯一の基軸通貨として経済覇権を手にした瞬間だった。協定調印式が行われた部屋には今でも多くの観光客が訪れる。
舞台となったホテルでは、各国首席代表のネームプレートが掲げられた客室が、ノックとともに協議が始まる臨時会議室と化し、代表団はこうした非公式協議を重ね、本音を探り合った。精力的な交渉の末、合意までの期間はわずか3週間。世界経済の命運を握る協定としては異例の短さだ。
このホテルの歴史に関する著書を持つマーク・リノさん(64)は、短期集中の交渉について、安定した戦後体制の実現という理想を共有し、「熱気にあふれていた」とみる。ブレトンウッズ体制では日独伊など枢軸国にも門戸が開かれ、日本は52年にIMFと世界銀行に加盟した。
◇揺らぐ地位に焦り
80年にわたり受け継がれる国際協調は大きな試練を迎えている。大統領に復帰したトランプ氏は昨年4月、製造業復活の名の下、相互関税を打ち出し、自由貿易の理念をなかば否定。日本など同盟国にも容赦なく高関税を振りかざした。
ブレトンウッズ体制を裏付けとした強いドルは、割安な資金調達や世界中での企業買収を後押しし、米国に繁栄をもたらした。だが、相互関税ショックが直撃し、市場は株・ドル・債券が同時に売られる「トリプル安」に直面。ドルは地位が揺らぎ始めた。
「私は国債のトップセールスマン」。ベセント財務長官は昨年11月、金融関係者に力説した。投資ファンド出身で市場が一目置くベセント氏のメッセージは米国離れを避けたいとの焦りも透けた。思いとは裏腹に混乱は収まり切らない。信認低下に伴う「漠然とした不安」(アナリスト)から、国債利回りの高止まりが継続。相互関税を巡っては最高裁が違憲と判断し、待ったをかけたが、トランプ氏による関税の脅しは終わらない。
トランプ氏が国際協調を軽んじる中、ガイドのアーリーさんは「ブレトンウッズの精神が受け継がれることを願う」と力を込めた。(ブレトンウッズ=米ニューハンプシャー州=時事)。
【時事通信社】
〔写真説明〕ブレトンウッズ協定の交渉が行われたホテル=6月19日、米ニューハンプシャー州
〔写真説明〕ブレトンウッズ協定が調印された部屋=6月19日、米ニューハンプシャー州
〔写真説明〕ブレトンウッズの歴史を説明するガイドのアーリーさん=6月19日、米ニューハンプシャー州
〔写真説明〕ブレトンウッズ協定の交渉が行われたホテルの著書を出版したリノさん(左)=6月19日、米ニューハンプシャー州
2026年07月04日 07時05分