防衛省が決定した反撃能力(敵基地攻撃能力)の要となる国産の長射程ミサイルの最初の配備先は南西諸島ではなく、北海道や本州、九州の自衛隊駐屯地・基地から選ばれた。自衛隊が防御の「盾」だけでなく、攻撃の「矛」を手にする「防衛力の抜本強化」の負担は全国的に広がる。
中国や北朝鮮は日本列島を射程に収めるミサイルを多数保有しており、有事に「矛」の配備先や火薬庫を狙われる不安が地域住民に高まる可能性もある。防衛省は「防衛体制を強化することにより抑止力・対処力が高まり、日本への武力攻撃の可能性そのものを低下させることにつながる」として、関係自治体に理解を求める方針だ。
注視されるのは、対地攻撃用の「島しょ防衛用高速滑空弾」の富士駐屯地(静岡県)や上富良野駐屯地(北海道)への配備。防衛省は選定理由について「訓練環境や運用基盤」を挙げたが、それだけではない。自衛隊関係者によると、前線より敵の攻撃を受けにくい「残存性」や、離島より補給体制が整っている戦闘継続能力も考慮されたという。
高速滑空弾は高高度から超音速で飛行し、迎撃されにくい変則的な軌道を描くのが特長。精密攻撃は最大射程の7~8割が攻撃対象圏内だという。
滑空弾の早期配備型は射程数百キロだが能力向上型も開発中で、射程1000~2000キロを目指すとされる。富士駐屯地を基準にすれば中国や南西諸島周辺まで、上富良野駐屯地からは北朝鮮やロシアが射程に入る。
能力向上型に関する防衛省の政策評価書には「弾薬等の継続的な補給が可能となる本州等から対処できる射程を有する装備品が必要」などと記述されている。
自衛隊の火薬庫増設・新設計画も進む。対象は北海道や青森、京都、広島、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各府県の15施設に及ぶ。増設は計約300億円の予算が計上された陸自の祝園分屯地(京都府精華町など)が最大規模で、本州の反撃能力の補給拠点になる可能性もある。
〔写真説明〕陸上自衛隊に配備される島しょ防衛用高速滑空弾の輸送に使う弾薬車=6月8日、静岡県の東富士演習場
〔写真説明〕防衛省が開発を進める島しょ防衛用高速滑空弾(能力向上型)の政策評価書。「本州等から対処できる射程」と記述されている
2025年08月30日 07時18分