戦後、焼け野原と化した東京は、高度経済成長に伴う1960年代の人口流入を経て、今や人口1400万人を抱える大都市となった。政府は地方の衰退や人口減少に歯止めをかけるため、2015年度から「地方創生」総合戦略に着手。ただ、その後も一極集中は加速し、10年後となる今年度、人口減少を「前提」とした対策にかじを切った。専門家は、持続可能な社会とするため、生命や産業が地域で循環することの重要性を訴える。
◇産業転換、都市集中招く
第2次世界大戦では、民間人を含む310万人が命を落とした。大都市を中心に激しい空襲に見舞われ、1940年に735万人だった東京の人口は、45年には349万人まで落ち込んだ。
戦後の混乱が一段落すると、鉄鋼や機械など産業の重化学工業化によって高度経済成長に突入。原材料の入手のしやすさを重視して全国に散在していた工業都市が次第に衰退し、自動車や家電製品などを大量生産する工場を管理する組織が都市部に集積した。
総務省の住民基本台帳に基づく人口移動報告によると、62年の東京圏への転入超過数は38万8000人で過去最大。一方、地方圏は61年に65万1000人の転出超過数を記録した。
都市の過密が問題となる中、第2次池田内閣(当時)は62年に工場の地方分散を促す計画を策定。オイルショックやバブル経済の崩壊による経済の混乱もあり、都市部への人口流入は一時的に抑制された。東大名誉教授の神野直彦氏(地方財政論)は「オイルショックはもう重化学工業の時代ではないという警告だった。しかし、日本は産業構造を変えず、廉価な賃金を求めて海外に工場を移し、管理機能が東京に集中することとなった」と指摘する。
◇地域社会維持のため
東京一極集中や人口減少を食い止めようと、安倍内閣(同)は2015年度、地方移住の推進を柱とする地方創生施策を始動。しかし、現状はより深刻だ。総務省によると、今年1月現在の日本人人口は1億2065万人で、前年から90万人減少。都道府県別では東京のみ増加が続く。内閣官房幹部は「これだけ人口が急減するという現実を直視してこなかったのではないか」と振り返る。
この反省を踏まえ、政府は6月、人口減少が続く中でも地域社会を維持するため、今後10年で取り組む「地方創生2.0基本構想」を閣議決定した。若者が東京圏から地方へ転出する割合を倍増するほか、住民票がある自治体以外の地域に継続的に関わる「関係人口」を延べ1億人とする目標を設定。地方の担い手不足に対応し、持続可能な社会づくりを目指す。
神野氏は地方創生について、地域と無関係な工場を呼び込むのではなく、「地域を知る人たち自身が、地域をどう発展させていくのかを考えていかなければいけない」と訴える。
また、戦後80年を振り返り「国家間の対立関係が強まり、武力の増強によって一触即発のような状態が作られることで戦争に陥る危険性が非常に高くなる」と各国の右傾化を危惧。「地域ごとに生命や産業が循環する社会をつくっていかなければ、世界の出来事によって生活が脅かされる」と警鐘を鳴らす。
【時事通信社】
〔写真説明〕取材に応じる東大名誉教授の神野直彦氏=7月7日、東京都港区
2025年08月17日 07時06分