低所得国、援助削減で苦境=世銀の役割、一段と重く―復興と開発支援担う



【ワシントン時事】終戦前の1944年、戦後の国際金融秩序を定めたブレトンウッズ会議で、世界銀行の設立が決まった。以降、世銀は戦禍からの復興や途上国の開発促進を担ってきた。トランプ大統領率いる米国をはじめ、先進国が対外援助を大きく削減するのに伴い、低所得国の苦境がさらに深まる今、最大の開発金融機関として、貧困撲滅に向けた世銀の役割は重みを増している。

◇雇用創出こそ最善策

「雇用は貧困をなくす最善策だ」。バンガ世銀総裁は4月の記者会見で、世銀が途上国での雇用創出を支援する必要性を訴えた。向こう10年、途上国では12億人の若者が労働市場に参入するが、創出される雇用は4億人分にとどまる見通しという。

甚大な戦災を被った欧州諸国の復興を目的に設立された世銀だが、時代とともに途上国の開発支援や貧困撲滅など、世界の開発ニーズに合わせて役割を変えてきた。日本も50~60年代、東海道新幹線の建設などで世銀融資を仰いだ。

そして今、世銀は貧困撲滅のため雇用創出に注力する方針を打ち出す。バンガ氏は途上国の若者が生活の糧を得られなければ、「社会の不安定化と不法移民流出の圧力が強まり、世界的なリスクになる」と警告した。

世銀は2023年、使命に「住みやすい地球」を加え、気候変動対策への役割拡大にかじを切った。しかし、最大出資国の米国で、気候対策を「緑の新たな詐欺」と批判し、敵意すら向けるトランプ政権が発足。雇用創出への支援は「無難」(米シンクタンク、世界開発センターのランダース副所長)だったという事情も透ける。

◇曲がり角の対外援助

国際社会の低所得国支援は現在、曲がり角を迎えている。トランプ米大統領は対外援助機関の国際開発局(USAID)を「無駄と詐欺を排除するため」として解体、関連予算を大きく削る。他の先進国でも、ロシアのウクライナ侵攻を受けて国防費を増やし、「自国第一」という大衆迎合的な主張も広がる状況で、援助を減らす流れが加速している。

戦後80年、多くの新興国・途上国が経済成長を遂げ、豊かになった。現在では中国や中東の産油国など「資金の出し手は多い」とランダース氏は語る。一方で低所得国はコロナ禍以降、多くが過剰債務問題を抱え、そして新たに主要国からの援助削減に見舞われる。

ランダース氏は「低所得国は市場から資金調達ができない」と指摘。2国間援助の最大の供給元だった米国に頼れない中、「世銀は低所得国の支援を優先する必要がある」と訴えた。

【時事通信社】 〔写真説明〕世界銀行のバンガ総裁=4月22日、米ワシントン(AFP時事)

2025年08月18日 12時58分


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