
【パリ時事】2015年11月にフランスの首都パリと郊外で130人が殺害された同時多発テロから13日で10年。事件は21~22年の刑事裁判で一区切り付いたが、犠牲者の遺族や惨劇からの生還者は、深い傷を抱え懸命に生きている。
◇2人の父親
同時テロではパリの「バタクラン劇場」が最悪の修羅場と化した。米ロックバンドの公演を3人組のテロ犯が襲撃。銃が乱射され、観客ら90人が死亡した。
劇場内で当時28歳の子供を亡くした2人の父親の間に交流が生まれた。一人は観客だったローラさんの父で、被害者団体の代表を一時務めたジョルジュ・サリーヌさん。もう一人は、突入した警官隊に撃たれ、自爆ベルトが作動したテロ犯の父アズディン・アミムールさんだ。
連絡を取ったのはアミムールさん。「家族はテロリストではない」と説明し、謝罪したかったという。サリーヌさんは戸惑ったが、17年に初対面。「テロ犯の親も被害者。罪の意識と社会の非難で、苦しみは私以上だろう」と面会を続けた。
サリーヌさんは対話を通じ、「優しい子」だったアミムールさんの息子がシリアで過激派組織「イスラム国」(IS)に加わった経緯を知る。背景には欧州での反イスラム感情の高まりと、イスラム過激派の勢力拡大という負の連鎖があると考えるようになった。2人は20年に共著を出版。仏国内各地を巡り、テロ防止を訴えてきた。
だが、被害者側と加害者側の接触には反対意見が根強い。劇場で命を落としたエステル・ルアさん=当時(25)=の母親は「犯人を決して許さない」つもりだ。年月を経ても「娘のことを毎日考える」と、悲痛な思いを地方紙に吐露した。
◇体験共有で強い絆
テロを生き延びた見ず知らずの者同士が友情を育んだケースもある。パリジャン紙は、劇場で隣に居合わせたダビッドさん、ステファンさんにインタビュー。2人の男性は「近親者でも共有できない出来事を一緒に体験した」ことで強い絆が生まれ、つらい時期を励まし合って克服した。ダビッドさんは「自分を見失いそうになるとステファンに相談する。テロ以降、地に足を着けるようにしてくれるのは彼だけだ」と言い切る。
一方、身体は無傷でも、殺りく現場で負った心的外傷(トラウマ)から、生還後に命を絶つ人も。「(テロ犯の)銃声が忘れられない」と両親に打ち明けた男性は17年、31歳で自殺。被害者団体の中心的存在だった漫画家の男性は事件の8年半後、昨年5月に58歳で死を選んだ。AFP通信によると、パリで13日に開かれる追悼集会では、2人を含む犠牲者132人に祈りをささげる。
【時事通信社】
〔写真説明〕2015年に起きたパリ同時テロの犠牲者を追悼する人々=9日、パリ
〔写真説明〕同時テロで襲撃されたパリのバタクラン劇場=2015年11月(AFP時事)
2025年11月13日 12時44分