
タイ軍は12日、カンボジア国境に接する東北部スリン県チョンジョム地域にある「特殊詐欺村」を報道陣に公開した。約2万人が従事していたとみられる施設には、偽の警察・銀行のほか、多言語マニュアルや日本人の個人情報、やりとりの記録も。東南アジアで摘発が相次ぐ特殊詐欺は「産業規模」に拡大しているとも指摘され、巧妙で手の込んだやり口の一端が垣間見えた。
◇「かけ子」への拷問部屋も
未画定国境地帯に位置するこの拠点は、国境紛争が激化した昨年12月、カンボジア軍のドローン発進拠点となっているとしてタイ軍が砲撃。詐欺集団は退避した。
80万平方メートルの敷地には約160棟の建物が林立。タイ軍関係者によると、攻撃前に多くの人がバスで立ち去る様子が目撃された。建物内には衣服や食べかけの食事が残されたままになっていた。
屋内には2段ベッドが並ぶ居住スペースのほか、中国やオーストラリア、ブラジルなどの警察署や銀行を模した部屋が設けられ、偽の警察官の制服がラックに掛けられていた。音声だけでなく、ビデオ通話も悪用していたとみられる。
机が置かれた部屋には、被害者とのやりとりを想定した多言語のマニュアルや電話番号が記された書類が残され、廊下には防音仕様の電話ボックスが並ぶ。看板や建物内のポスターは中国語で書かれているものが多い。
特殊詐欺を巡っては、自国への「かけ子」として、世界各地から若者らがだまされたり拉致されたりして集められ、強制的に加担させられるケースが相次いでいる。今年だけでカンボジア、インドネシア、ベトナム、フィリピンで日本人計35人が拘束された。
壁の貼り紙には、許可なく持ち場を離れたり、違反したりした際の体罰や罰金が明記され、統制の厳しさがうかがえる。タイ軍によると、電気ショックを与える器具やむちが置かれた「拷問部屋」も確認されたという。
◇銀行残高に証券保有状況まで
日本国内でも特殊詐欺の被害は深刻で、SNS型投資・ロマンス詐欺と合わせた2025年の被害額は計3241億1000万円(暫定値)と、過去最悪を更新した。
ある部屋の机には、日本人の個人情報が記された書類が散乱。70枚以上あり、氏名、年齢、電話番号、家族構成のほか、銀行口座の残高や投資信託・証券の保有状況まで根掘り葉掘り聞き出したもようだ。住所も全国各地に及び、広範囲に電話をかけていた形跡があった。
また、警察官の氏名として「松岡裕介」と記され、備考欄には「最初からうたがっていた」「全く理解できてないっていわれて死亡」「第三者が介入したため死亡」など、やりとりを記した紙もあった。近くには、個人情報の漏えいや電気料金滞納、捜査を名目に話を切り出す想定問答集も残されていた。
タイ国防省の報道官は記者団に、「タイだけの問題ではなく、国際社会が協力して取り組む必要がある」と強調した。(チョンジョム=タイ=時事)。
【時事通信社】
〔写真説明〕カンボジアとの国境地帯で、詐欺拠点として使われていた施設=12日、タイ東北部スリン県
〔写真説明〕カンボジアとの国境地帯で、詐欺拠点だった施設の内部=12日、タイ東北部スリン県
〔写真説明〕カンボジアとの国境地帯にある詐欺拠点に設置されたブラジルの警察署を模した部屋=12日、タイ東北部スリン県
〔写真説明〕カンボジアとの国境地帯にある詐欺拠点に残されていた日本人の個人情報が記された書類=12日、タイ東北部スリン県
2026年03月14日 07時06分