
【ムンバイ(インド西部)時事】2026年にも日本を抜き、世界4位の経済大国となるインド。商都と呼ばれる西部ムンバイにはその勢いを映す高層ビルが林立する傍ら、アジア最大級のスラムが広がる。再開発が決まり、立ち退きを前に住民が揺れている。
◇新居約束
狭く入り組んだ路地に下水や薬品が混じったような臭いが漂う。ムンバイ中心部のダラビ地区。約2.5平方キロに100万人近くが密集して暮らしているとされる。
19世紀、各地から労働者が移り住み、皮なめしや陶器製造、ごみのリサイクルといった小規模な工場が集積。劣悪なインフラながら経済活動は活発で、都市生活を支えてきた。米アカデミー賞を受賞した英映画「スラムドッグ$ミリオネア」の舞台としても有名だ。
「小さな家に住んでいた人たちがタワーで良い生活を送れるなんて」。案内してくれた住民バーラティ・ワゲラさん(35)が興奮気味に語った。地元州政府は今年、新興財閥主導の再開発プロジェクトを承認。32年までにスラムを近代的な地区へとつくり変える計画だ。00年より前からダラビに住んでいた人は、同じ場所に建つマンションの部屋を無償で提供されるという。
立ち退きに同意したことを示す英数字が壁に記された建物も多い。「(再開発は)ウィンウィンではある。けど、動きたくない人もいる」とワゲラさんは語る。
「6世代にわたってここで暮らしてきた」。陶器製造業のラメシュ・タンクさん(48)はそう誇りつつ、再開発で家業を続けられなくなると心配する。陶器作りには大きな窯が必要で、適した移転先を見つけるのは難しい。また、同じなりわいを持つコミュニティーと「離れ離れになりたくない」とも語った。
1977年創業の革製品店を営むイムラン・カーンさん(40)も移転に反対だ。商品のかばんにはダラビ製を示す「D」の文字が刻まれている。「ダラビは私たちのブランドだ」と力を込めた。
◇補償に差も
立ち退きの補償に差があることで、住民間に分断が生まれつつある。主婦のダクシャ・ワガディヤさん(43)は2000年以降にダラビに移り住んだため、同地で新居は得られない。仕立屋の夫の月給は1万6000ルピー(約2万8000円)程度。家賃や地価がインドで最高水準のムンバイで「この少ない額では家を借りられない。どうやって生きていけるのか」と嘆いた。
【時事通信社】
〔写真説明〕インド西部ムンバイにあるアジア最大級のスラム・ダラビ=19日
〔写真説明〕インド西部ムンバイにあるスラム・ダラビを案内するバーラティ・ワゲラさん。建物の壁には立ち退きに同意したことを示す英数字が記されている=18日
〔写真説明〕インド西部ムンバイのスラム・ダラビで陶器製造・販売店を営むラメシュ・タンクさん=19日
〔写真説明〕インド西部ムンバイにあるスラム・ダラビで、立ち退きに同意する住民の書類を確認する担当者(右)=19日
2025年12月29日 07時00分