守れるか豪先住民の岩絵=世界遺産、酸性雨が大敵―ガス供給と両立課題



【シドニー時事】オーストラリア北西部カラサ郊外のムルジュガ国立公園に、先住民が描いた太古の岩絵群がある。2025年7月に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録され、後世へ残そうとの機運が高まる。だが、豪政府が近隣の天然ガス田稼働を70年まで延長することを許可し、酸性雨による岩絵の劣化が懸念されている。日本もそのガスを輸入しており、文化財保護とエネルギー供給の両立が課題だ。

ムルジュガは「突き出た腰骨」を意味し、文字通りインド洋へ突き出た半島と島々からなる約10万ヘクタールの陸地と海域が世界遺産となった。岩を彫って人や動植物、儀式などを表現した絵が100万点以上あり、最古のものは5万年前の制作とされる。狩りや漁を通じて自然と共生していた当時の生活をしのばせ、カメの産卵や絶滅したタスマニアタイガーを描いたものもある。

ユネスコは「環境との関わりの中で築かれた文化や人類の営みを示す優れた例」と評価する。一部は海面上昇で水没しており、気候変動を追跡する手掛かりとなる。

岩絵群に近い豪最大のガス田「ノースウエストシェルフ」の操業許可は30年に期限が切れる予定だったが、豪政府は国内外の需要を考慮して25年9月に40年間延長を認めた。ウクライナ戦争に伴いロシアからのガス調達が困難となる中、日本にとって豪州産ガスの重要性は増している。

一方、ガス田延長で酸性雨の影響が長引けば岩絵の大敵となる恐れがある。複数の市民団体が延長の撤回を求めて提訴しており、その一つ、豪自然保護財団は「汚染物質が岩絵を侵食し続ける」と警告する。豪政府は争う姿勢だが、ガス田運営企業ウッドサイドに対し、窒素酸化物などの排出を30年までに6割削減するよう要求。履行を監視し続ける方針だ。

【時事通信社】 〔写真説明〕カメの産卵を描いた太古の先住民岩絵。オーストラリア北西部ムルジュガ国立公園(先住民団体「ムルジュガ・アボリジナル法人」提供・時事) 〔写真説明〕100万点以上の岩絵があるオーストラリア北西部ムルジュガ国立公園(先住民団体「ムルジュガ・アボリジナル法人」提供・時事)

2025年12月29日 19時44分


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