「資本論」で知られる経済学者カール・マルクスの思想を新解釈した新書「人新世の『資本論』」が、異例の売れ行きだ。執筆した経済思想家の斎藤幸平大阪市立大准教授(34)は、「気候危機や格差社会の根本原因である資本主義に緊急ブレーキをかけ、脱成長を実現する必要がある」と説く。
同書は昨年9月の出版から半年余りで25万部を突破、今年2月に新書大賞(中央公論新社主催)を受賞した。斎藤氏の著作は世界的にも注目されており、現在英語版の執筆に取り掛かっている。
斎藤氏はマルクス全集を編集する国際的なプロジェクトに参加しており、手付かずだった晩年の研究ノートを読解。「脱成長により潤沢な社会に移行する」というのがマルクスの思想の到達点だったと新書で解き明かした。
脱炭素化の取り組みは世界で加速するが、「気候危機は、利潤のために自然から収奪を続ける資本主義の結果だ」と指摘。際限なく資源を浪費する大量生産、大量消費社会からの転換を訴える。
そのための方法として、水道や電力、医療、教育といった基礎的なサービスを住民が管理に加わる「コモン(共有財)」に切り替えるよう提言する。パリやバルセロナなど欧州の大都市の取り組みに注目し、「休日を増やすなどして労働をスローダウンすれば、成長主義の悪循環から解放され、二酸化炭素の排出も低減できる」と話す。
日本を含め各国で経済格差が広がる現状を憂い、「脱資本主義の体系的な議論があるのは、歴史的にもマルクス主義しかない。使わない手はない」と力を込める。今後は国家論や貨幣論にも取り組む考えだ。
【時事通信社】
〔写真説明〕取材に応じる「人新世の『資本論』」著者の斎藤幸平さん=2月24日、大阪市住吉区
2021年05月02日 15時23分