遠のく解決、深まる不信=米離脱で形骸化、秩序後退象徴―イラン核合意から10年



【ワシントン時事】2015年に米国とイラン、英仏独中ロの5カ国がイラン核合意を結んでから14日で10年。イランの核開発制限を目指す合意だったが、米国は第1次トランプ政権の18年に離脱。合意の形骸化が進み、米国は核計画の進展阻止を掲げてイラン空爆に踏み切った。問題解決が遠のき、米イラン間の不信が深まる状況は国際秩序が後退する10年を象徴する。

◇核計画を監視

「核兵器を手にする寸前だ」。トランプ大統領は今年6月、核保有への危機感を抱き、米軍のB2ステルス爆撃機などでイラン核施設3カ所を空爆した。米軍によるイラン本土への直接攻撃は初めて。外交的解決に向けてまい進していた姿勢を一変させ、武力行使を通じたウラン濃縮能力の無力化を図った。

15年の合意では、イランも加盟する核拡散防止条約(NPT)下で認められる核の平和利用に十分な3.67%をウラン濃縮の上限に設定。空爆対象となったフォルドゥ核施設での濃縮活動や核物質保有も15年間禁止し、見返りとして欧米主導の対イラン制裁を解除した。

当時のオバマ米政権が目指したのは、最低限のウラン濃縮を認めつつ、査察などを通じ、長期にわたってイランの核計画を監視下に置くことだった。同政権高官として交渉に関わった米シンクタンク「ワシントン近東政策研究所」のリチャード・ネフュー非常勤研究員は、核技術進展を防ぎつつ、「さらなる交渉の時間や余地を稼ぐ狙いもあった」と語る。

◇空爆で外交困難に

「オバマ超え」をもくろむトランプ氏は2期目就任後、核開発を再開していたイランに濃縮活動の完全放棄を迫った。だが、自ら設定した交渉期限を迎え、イスラエルが核の脅威の除去を理由に先制攻撃を行うと、これに乗じる形で核施設を空爆。トランプ氏は「完全に破壊した」と主張するが、損傷の実態は正確につかめていないのが現状だ。

空爆に反発したイランは、国際原子力機関(IAEA)との協力を停止し、査察官は撤退。監視の「目」が失われ、核合意で目指したイラン核計画の透明性確保は大きく後退した。ネフュー氏は「軍事力を行使すれば外交を通じた解決がより困難になるだけだ」と指摘する。

15年の核合意は、NPT体制下でイランの核開発を制限するという国際法を重視した取り決めだった。一方で、イラン空爆に国連憲章違反を指摘する声は多い。トランプ氏の登場で事実上ほごになった核合意は「ルールに基づく国際秩序」が力を失いつつある現実を映し出している。

【時事通信社】 〔写真説明〕米軍の空爆を受けたイラン中部イスファハンの核施設=6月22日(米マクサー・テクノロジーズ提供)(EPA時事)

2025年07月13日 07時12分


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