被爆した母の教え胸に=信条表れる選手指導―フィギュアの浜田コーチ



フィギュアスケートの指導者として40年以上活動し、数々の選手を成功に導いてきた浜田美栄コーチ(65)は、1945年の原爆投下時、広島にいた榎郷子さん(91)を母に持つ被爆2世であることを明らかにしている。悲惨な経験を後世に語り継ぐ活動を続ける郷子さんの姿を見ながら、自分も「伝えていかないといけない」との思いを抱いている。

45年8月6日。11歳だった郷子さんが両親と自宅にいたところ、閃光(せんこう)が走った。爆風の後、郷子さんが目にしたのは全身にガラスが刺さった母の姿だった。爆心地から約2キロの場所だった。

郷子さんは、やけどを負った人や熱さから逃れようとした人が大勢飛び込んだ川を渡り、郊外へ逃げた。姉の睦子さんの行方は分からずじまい。やがて、空き地に積まれていた屋根瓦の下から姉の上着だけが見つかった。その衣服は現在、広島市の広島平和記念資料館で展示されている。

郷子さんの話を幼少期から聞かされてきた浜田さん。教えられたのは「自分自身で立ち直ること、自分で生き抜くこと」。焼け野原になった広島の街が時間をかけて復興を遂げたように、何があっても前を向く強さを持つことが大切だと、人生観や価値観に刻まれている。

浜田さんは現在京都を拠点に、今年の世界選手権女子で銅メダルを獲得した千葉百音や、世界ジュニア選手権女子で3連覇を遂げた島田麻央(ともに木下グループ)らを指導。選手は調子を崩すこともあるが、「落ちた後の立ち上がり方を教えるのが指導者の大事な役目」と考えている。ポジティブな思考を引き出す会話を心掛け、「うまい人が勝つのではなく、強い人が勝つ」と伝える。

昨年ノーベル平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の一員でもある郷子さんが発した「好きなことができる世の中に感謝しなさい」との言葉も胸にある。選手に話をすることも。浜田さん自身も「試合が開かれ、来られたことに感謝を唱える。むっちゃん(睦子さん)の分も頑張ろうと思う」。

海外での講習会で指導する際は、郷子さんの被爆経験について発言するようにしている。「世界と交わるところに立たせてもらえる環境にある。平和についても考えながら行動したい」。母から受け継いだ思いを、今後も未来につないでいく。

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2025年08月03日 07時14分


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