【ワシントン時事】9月10日に米保守活動家チャーリー・カーク氏が講演中に射殺されてから1カ月が過ぎた。与党共和党をはじめとする保守派は、カーク氏を左派思想に影響を受けた男に命を奪われた「殉教者」と位置付け、結束の象徴として偶像化。トランプ政権は極左壊滅を掲げて野党民主党の地盤に州兵を送り込もうと試みるなど、政治利用とも取れる動きを強めている。
トランプ大統領は今月8日、ホワイトハウスで反ファシスト運動「アンティファ」対策をテーマにイベントを主宰し、カーク氏について「極左過激派の手で暗殺された」と一方的に断定した。その上で「左翼の暴力とアンティファに触発されたテロのまん延は、過去約10年にわたり激化し続けてきた」と主張した。
トランプ氏は9月22日、アンティファを国内テロ組織に指定する大統領令に署名。この後、民主党の地盤である西部オレゴン州ポートランド市内で反政権デモが繰り返されていたことを踏まえ、「アンティファの攻撃」を受ける連邦施設を守ると称して州兵を派遣する方針を表明した。10月に入ってからも、民主党優勢の中西部イリノイ州シカゴへの州兵展開を承認した。
政権が強硬策を相次いで打ち出す背景の一端に、カーク氏の死を機に高まった保守派の団結がある。事件翌日には、共和党の下院議員十数人が連邦議会議事堂にカーク氏の像を設置するよう求める書簡を公表。トランプ氏はカーク氏に文民最高位の「大統領自由勲章」を授けると表明しており、夫人のエリカ氏に近く手渡す予定だ。
保守派の中でもとりわけ動向を注目されているのが、キリスト教右派だ。政権首脳がそろって参加し、10万人ともされる人々が集まった9月21日のカーク氏の追悼式では、バンス副大統領が「チャーリー・カークと主イエス・キリストをたたえる『リバイバル』(信仰復興)を迎えた」と強調。式は、政権側が参加者の信仰心に働き掛け、政治的支持を訴える場となった。
ただ、同性愛者の権利擁護などについて過激な反対論を展開したカーク氏を神聖視する風潮には、リベラル層を中心に根強い抵抗がある。政治利用を巡り議論も噴出しており、カトリック系総合誌「アメリカ」は、「政治を通じ人々をイエスの下に導こうというカーク氏の願いが、多くの世俗権力によって私たちを分断に誘うために用いられている」と批判する編集長の論説を発表した。
【時事通信社】
〔写真説明〕射殺された米保守活動家チャーリー・カーク氏=2024年7月、米西部アリゾナ州グレンデール(AFP時事)
〔写真説明〕トランプ米大統領(左)と、射殺された保守活動家チャーリー・カーク氏の妻エリカ氏=9月21日、西部アリゾナ州グレンデール(AFP時事)
2025年10月13日 12時46分