奈良市で2022年、安倍晋三元首相を手製銃で殺害したとして、殺人罪などに問われた山上徹也被告(45)の裁判員裁判の公判前整理手続きがヤマ場を迎えている。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)による「宗教被害」が事件の背景にあるとして、弁護側が求める宗教学者らの証人尋問を行うか否かが近く決まる見通しだ。28日の初公判を前に、奈良地裁は21日に手続きを行う。
関係者によると、山上被告の母親は、被告が10代の頃に旧統一教会に入信し、約1億円を献金、破産した。被告は捜査段階の調べに「母親が入信して家庭がめちゃくちゃになり、(旧統一教会に)恨みがあった」と供述。当初は教会幹部を標的としたが、新型コロナ禍の影響で断念し、つながりのある安倍氏に変えたと説明したという。
23年10月に始まった公判前整理手続きで、弁護側は当初、事件に至った動機の解明に必要だとして、心理学の専門家による情状鑑定を請求したが、地裁が却下。このため、旧統一教会による霊感商法や高額献金被害に詳しい宗教学者に協力を依頼し、山上被告と面会させた。
弁護側は、殺害したこと自体は認める見通しだ。ただ、「事件には宗教という『特殊な要素』が絡んでおり、全容解明には専門家の証言が必須」などと主張。母親ら親族も含め、計5人の尋問を請求している。一方、検察側は「生い立ちを過度に重視すべきではなく、宗教を理由に犯行を正当化するのは誤りだ」と反論し、学者の尋問は不必要と訴えている。
山上被告は事件前、山中で手製銃の試射を繰り返すなどしており、検察側は高い計画性や殺意の強固さなど、犯行そのものの悪質性を立証したい考えだ。自作した銃を鑑定した警察官や、銃撃時に現場にいた参院議員らの証人尋問を申請しており、地裁は併せて採否を決めるとみられる。
これに対し弁護側は、手製銃は銃刀法が規制する「拳銃等」には当たらないと主張する方針という。
山上被告は22年7月、参院選の応援演説中だった安倍氏に向け、手製銃を2回発射し殺害したなどとして、殺人や銃刀法違反、武器等製造法違反などの罪で起訴された。今月28日以降、18回の審理を経て、来年1月21日に判決が言い渡される予定だ。
【時事通信社】
〔写真説明〕奈良県警奈良西署を出る山上徹也被告(右)=2022年7月10日、奈良市
2025年10月13日 07時04分