
【ニューヨーク時事】1945年、第2次世界大戦終結後の平和と安全の維持を目的に国連が発足してから、24日で80年を迎えた。近年はたびたび「機能不全」が指摘され、深刻な財政難も相まって大規模な改革への岐路に立たされている。こうした現状について、専門家は「国際協調の基盤を提供し続ける一方で、安全保障理事会は分断が著しく、深刻な紛争を前にまひ状態に陥っている」と指摘。実効性が低下する中で、国連を頼りにしてきた多くの国からの「信頼を損なっている」と説明する。
◇「戦後秩序」の限界
グテレス事務総長は、80周年に合わせて23日に声明を発表。「単独では対応できない問題の解決に向け、世界が誓いを新たにする時だ」と協調を呼び掛けた。課題には紛争や気候変動などに加え、「国連の基盤に対する脅威」も挙げた。
国連は、平和維持活動(PKO)や、持続可能な開発目標(SDGs)などに多国間で取り組む舞台となってきた。一方で、紛争や武力による現状変更の試みが各地で続き、人工知能(AI)の軍事利用など新たな課題も出現。中国やインドの台頭や新興・途上国「グローバルサウス」の発言力増大、米中対立の激化など、多極化する世界情勢に対し、戦後の国際秩序を前提とする制度設計には限界が見え隠れする。
ベーアボック総会議長(ドイツ)は今月、「国連の構造や手続きは古び、今こそ変革が必要」と強調した。安保理改革に向け、日本はドイツ、ブラジル、インドと共にたびたび常任理事国の拡大を訴えているが、議論は停滞。改革には常任理事国の合意が必要で、シンクタンク「国際危機グループ」の国連専門家ダニエル・フォーティ氏は「理想にとどまり、現実的ではない」との見方を示す。
2025年9月までの10年の拒否権行使はその前の10年と比べて約2.5倍に増加。特に、ウクライナ侵攻とパレスチナ自治区ガザ情勢を巡っては、紛争解決に向けた合意形成ができない現状が浮き彫りとなった。
財政難を巡っても、グテレス氏は「全加盟国が誠実に分担金を支払うことが前提になっている」と、既存のルールの限界を指摘。最大の分担金を負担する米国は、国連批判を繰り返すトランプ大統領の対外援助削減方針によって、9月末時点でPKO予算も合わせると38億ドル(約5800億円)超が未納となっている。グテレス氏は「このままでは破綻へ向かう」と危機感をあらわにした。
◇問われる「立ち位置」
状況改善に向け、グテレス氏は25年3月、「UN80」と名付けた包括的改革を始動。コスト削減、任務履行の在り方の見直し、組織改編の三つの柱に取り組む。26年に予算15%、職員定数19%をそれぞれ削減する方針。機関の統廃合やPKO部隊の25%削減案も打ち出した。
ただ、フォーティ氏は一連の改革案は「地政学的な分断が顕在化する中で、国連の立ち位置をどう取るかのビジョンに欠ける」と分析。状況改善には「国連が果たすべき役割について、主要国間で政治的合意が不可欠だ」と強調した。27年1月に就任する次期事務総長が長期的な改革を担うため、今後の選考過程で「加盟国はどんな変化を望むか見極めることになる」との見通しを示した。
【時事通信社】
〔写真説明〕グテレス国連事務総長=22日、スイス・ジュネーブ(EPA時事)
〔写真説明〕ベーアボック国連総会議長=9月22日、ニューヨーク(EPA時事)
〔写真説明〕ダニエル・フォーティ氏
シンクタンク「国際危機グループ」の国連専門家(本人提供)
2025年10月25日 07時12分