
【ワシントン時事】米半導体大手エヌビディア製の人工知能(AI)半導体を巡り、トランプ米大統領が中国への販売を容認したことに批判が強まっている。先端技術の流出が中国の軍事力強化につながる恐れがあるためだ。米国が優位に立つ「AI覇権」争いで、中国を利するとの見方が出ている。
◇崩れたフェンス
「会ったばかりだ」。3日、米議会議事堂に現れたエヌビディアのフアン最高経営責任者(CEO)は記者団に対し、トランプ氏とホワイトハウスで面会したと認めた。トランプ氏は5日後の8日、同社製AI半導体「H200」の対中輸出を許可するとSNSで発表した。
「フアン氏の大きな勝利」。米紙ニューヨーク・タイムズは同氏の数カ月にわたるロビー活動が功を奏し、規制緩和が実現したと指摘する。バイデン前政権は「スモールヤード・ハイフェンス(小さな庭に高い柵)」の方針で最先端技術を囲い込んで技術の流出を防いだが、トランプ氏の決定でフェンスはあっけなく崩れ落ちた。
◇AIの皇帝
第2次トランプ政権発足当初、国家安全保障会議(NSC)上級部長(技術担当)として、先端技術の規制強化を目指したのは対中強硬派のデービッド・フェイス氏だった。だが、極右インフルエンサーの進言を受け、トランプ氏は4月にフェイス氏を解任。政策立案の主導権を握ったのが「AI・暗号資産の皇帝」と呼ばれるデービッド・サックス特別顧問だ。
サックス氏はシリコンバレーの著名投資家で米実業家イーロン・マスク氏と近い。7月には米メディアのインタビューで、中国通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)から「市場を奪うことができる」と述べ、前世代型の半導体を中国市場に売り込むべきだと主張していた。
H200の対中輸出許可を巡る動きからは、サックス氏ら「テックライト(右派)」と呼ばれる規制緩和派が政権中枢で影響力を増していることが分かる。
◇強まる危機感
トランプ氏は、エヌビディアが売り上げの25%を米政府に支払うことを条件に規制緩和へと踏み切った。中国への警戒心が強い議会は「中国の技術的・軍事的優位性確保の取り組みが加速する恐れがある」(ウォーレン上院議員)と危機感を募らせる。超党派の取り組みとして、先端半導体の対中販売を制限する法案を提出する動きも出ている。
第1次政権下で国防次官補(インド太平洋安全保障担当)を務めたランドール・シュライバー氏は11日のシンクタンクの会合で、規制緩和を「収益の一部を目的とした取引のようだ」と指摘した。H200販売に伴う技術流出は「中国軍の利益となり、抑止力維持の観点からは米国の損失だ」と述べ、「極めて残念だ」と懸念を示している。
【時事通信社】
〔写真説明〕トランプ米大統領(左)とエヌビディアのフアン最高経営責任者(CEO)=4月30日、ワシントン(AFP時事)
2025年12月14日 19時00分