
【バンコク時事】タイのアヌティン首相が早期の下院解散(定数500)に踏み切ったのは、カンボジアとの国境地帯での紛争激化が背景にあるとみられる。専門家は「与党・タイの誇り党とアヌティン氏に対する国民感情と支持率が再び高まっている」と指摘。アヌティン氏は来年1月末までの解散を宣言していたが、これを好機と捉えて前倒しを判断したのではないかと説明する。
7日、国境地帯で道路改良作業に従事していたタイ軍兵士にカンボジア兵が発砲し、2人が負傷したことをきっかけに再燃した紛争では、これまでにタイ側では少なくとも20人が死亡した。タイ軍もカンボジア陣地に空爆を加えるなど攻勢に出ており、死傷者は増え続けているとみられる。
タマサート大学のプンラウィット講師(政治学)は紛争再燃で「国民のナショナリズム(愛国心)がかつてなく高まっている」と指摘。現状は与党に有利な状況にあると分析している。アヌティン氏は9日、フェイスブックに「タイの方向性は現状のままだ。停戦はない」と投稿するなど、強気の姿勢を崩していない。
ただ、タイの誇り党は東北部のカンボジア国境沿いを地盤としており、タイ側の犠牲者が増え続ければ、地元から同氏の指導力への疑念が芽生えかねない。プンラウィット氏は「今解散しなければ、政権支持率が急落する可能性がある」とも分析した。
【時事通信社】
〔写真説明〕カンボジア軍との衝突で負傷し、病院に搬送されるタイ軍兵士=7日、タイ東北部シーサケート県(EPA時事)
2025年12月13日 05時25分