
トランプ米大統領が返り咲きを果たした大統領選から5日で1年となる。トランプ政権は野党民主党の牙城である「ブルーステート(青い州)」への州兵派遣など権威主義的傾向を強めている。政権への支持は一定の広がりも見られ、来年11月の中間選挙に向け、社会の分断が一層先鋭化している。
◇権威主義への抵抗
「これは権威主義への抵抗だ」。民主党が強い中西部イリノイ州のシカゴ近郊ブロードビューにある移民税関捜査局(ICE)施設前で10月18日、政権の移民対策や州兵派遣に反対する約100人が声を上げた。
政権は犯罪多発などを理由に米国第3の都市シカゴに州兵700人を派遣する方針を決定。反発する市民と当局の衝突が続く。この日も警察官が目を光らせ、突然拘束されたデモ参加者がいた。
自身も拘束された経験を持つシカゴ市のジェシー・フエンテス市議(34)は「政権はあらゆる憲法上の権利を踏みにじっている。まるでゲシュタポ(ナチス・ドイツの秘密警察)だ」と憤る。
◇民主有力者狙い撃ち
次期大統領選候補の一人と目されるニューサム氏が知事を務める西部カリフォルニア州のロサンゼルスに州兵を派遣したように、トランプ氏は民主党有力者を狙い撃ちする。同じく候補に名前が挙がるイリノイ州のプリツカー知事も標的となった。シカゴの犯罪率は低下傾向にあるにもかかわらず、知事の統治能力が低いと印象付ける戦略だ。
プリツカー氏は全米各地で10月18日に行われた政権批判デモ「NO
KINGS(王はいらない)」に参加。「われわれは抵抗し続ける」と対決姿勢を鮮明にした。
ただ、政権による圧力は州兵派遣にとどまらない。トランプ氏は自身の熱狂的支持層「MAGA(マガ)」の代表格である保守活動家チャーリー・カーク氏の射殺事件後、反ファシスト運動「アンティファ」を国内テロ組織に指定する大統領令に署名。民主党や左派への攻撃の手を緩めない。
イリノイ州で移民保護に従事するブレンドン・リーさん(38)は「力による支配は、トランプ氏支持かどうかに関係なく誰もが警戒すべきだ」と指摘。フエンテス氏は「現状克服には連帯の力が必要だ」と強調した。
◇共和支持の動きも
シカゴでも新たに与党共和党を支持する動きが出ている。シカゴ在住のゾーイ・リーさん(39)は昨年、保守系団体「シカゴ・フリップス・レッド(シカゴを赤に変える)」を創設した。現在の民主党を「エリートの社交クラブのような組織だ」と批判。民主党は黒人コミュニティーの支援にも治安対策にも本気で取り組もうとしないとして、「シカゴの黒人共和党支持者から有権者全体の流れを変える」と意気込む。
中間選挙は、どちらの政党が下院(定数435)で過半数を制するかに注目が集まる。選挙分析機関クック・ポリティカル・リポートによると、優勢な選挙区の数は共和が206、民主は191となっている。
現在、イリノイ州選出の下院議員計17人のうち共和党は3人にとどまる。だが、共和党シカゴ地区のチャック・ヘルナンデス会長(52)は、当局との衝突など過激化する左派の行動に反感が出ていると主張し、「共和党の勢いが少しずつ強まっている。議席を増やせる可能性はある」と語った。
【時事通信社】
〔写真説明〕米移民税関捜査局(ICE)施設前で拘束されるデモ参加者=10月18日、中西部イリノイ州ブロードビュー
〔写真説明〕米移民税関捜査局(ICE)施設前で警戒する警察官=10月18日、中西部イリノイ州のシカゴ近郊ブロードビュー
〔写真説明〕取材に応じる米中西部イリノイ州シカゴのジェシー・フエンテス市議=10月19日、シカゴ
〔写真説明〕取材に応じるゾーイ・リーさん=10月18日、米中西部イリノイ州シカゴ
2025年11月03日 12時37分