
【カイロ時事】エジプトでムバラク独裁政権の崩壊を導き、民主化要求運動「アラブの春」の成功例とみなされた民衆による大規模デモが始まってから25日で15年。その後、同国初の自由選挙で誕生した政権は軍事クーデターで倒れ、主導したシシ大統領は長期独裁への道を歩んでいるように映る。治安当局は国民の監視を強め、自由を抑圧。不安定な経済状況下で貧困が拡大し、専門家は「国民の不満が限界に近づきつつある」と指摘する。
◇自由は悪
アラブ各国では長期独裁による腐敗や貧富の差の拡大を背景に、仕事に就けない若者らの不満が拡大。チュニジアで2011年1月に政権が倒れ、その熱狂がエジプトに飛び火した。「パン・自由・公正」を求める抗議活動は瞬く間に拡大し、同年2月にムバラク大統領を失脚に追い込んだ。
しかし、エジプトではイスラム組織ムスリム同胞団系のモルシ政権が12年に発足すると、宗教色が強い政治姿勢で社会は混乱に陥った。国防相だったシシ氏は13年、同胞団を嫌う市民の支持を背景に、超法規的措置で当時のモルシ大統領を拘束、解任。翌年の選挙で大統領に就任した。19年には憲法改正で司法機関トップの任命権を獲得し、大統領任期の延長が決まった。23年に再選され、任期は30年まで続く。
シシ政権では政治活動は制限され、絶大な力を持つ治安機関が「国家の安定」を名目にメディアや政府に批判的な人物を抑圧する。11年のデモで国民を駆り立てる大きな効果を発揮したSNSへの監視が強化され、発言などによって拘束される人々が後を絶たない。
強権化の背景には、自由を許したことへの反省があるとされる。ムバラク政権が不満を募らせる国民のガス抜きとして、統制下でありながらも政治・経済の自由を一定程度容認したため「隙」が生じたという見方だ。経済面でも軍関連企業の影響力が増し、シシ氏に権力が集中する「超大統領制」が築かれたとの指摘もある。
◇6割に食料補助
著名政治学者ハッサン・ナファ氏は、シシ氏によるプラスの成果は「交通や通信などインフラ整備だけだ」と断言する。その「代償」で対外債務は増加。一部に富が集中して中産階級が縮小し、貧困層が拡大していると強調した。現に主食のパンなど食費にかかる補助の予算は過去10年で約4倍に増え、人口の6割弱が受給している状況だ。
シシ氏について、周辺地域で紛争が相次ぐ中でも治安を保ち、インフラなど巨大プロジェクトを実現する強い指導者と評価する声もある。ただ、ナファ氏は、窮状の訴えすら封殺される状況で、行き場を失った怒りが「いつどこで爆発してもおかしくない」と警鐘を鳴らした。
【時事通信社】
〔写真説明〕エジプト・カイロの中心部で行われた大規模デモ=2011年2月(EPA時事)
2026年01月24日 20時32分