【バンコク時事】タイのペートンタン首相(38)=職務停止中=の就任から18日で1年。当初は一定の支持を得ていたペートンタン氏だが、5月に始まったカンボジアとの国境紛争を巡るタイ軍批判発言で人気は急落しており、近く司法が解職の可否を判断するなど窮地に立たされている。
ペートンタン氏は最大与党・タイ貢献党の事実上のオーナーであるタクシン元首相の次女で、同党党首を務める。昨年8月、同党のセター首相(当時)が憲法裁判所の判決で失職したことを受けてタイ史上最年少の首相に選出された。
政治経験が乏しく、タクシン氏が積極的な政治活動を展開する中で「父親の操り人形」とやゆされたが、タイ経済の柱の一つである観光業の振興などに尽力。国立開発行政大学院(NIDA)の3月の世論調査では、「首相にふさわしい政治家」で支持率トップ(30.9%)だった。
しかし、カンボジアとの未画定の国境地域で両国軍が武力衝突すると事態は急転した。ペートンタン氏は緊張緩和のため、親交のあるカンボジアの事実上の最高権力者フン・セン上院議長と電話協議。この際、タイ軍司令官を「(われわれの)反対側にいる人」と表現し「何か望むことがあるならば、私が対応します」などとおもねった発言をしていたことが、カンボジア側が流出させた録音で明るみに出た。
ペートンタン氏の発言に保守派は強く反発し、与党第2党が連立政権から離脱。6月の調査では同氏の支持率は9.2%にまで下落した。憲法裁は同氏に対する失職請求を受理し、判決まで首相としての職務停止を命じた。
カンボジアとの国境対立は7月に本格的な戦闘に発展。両国は米国などの仲介で停戦に合意したが、非難の応酬が続くなど緊張緩和には至っていない。8月29日に憲法裁がペートンタン氏の失職を認めれば政治空白が生じ、国境問題にも影響を与えそうだ。
タクシン氏を巡っても、王室への不敬罪と、2023年の帰国後に実刑判決を受けながら、収監生活を送らずに入院し続けた問題で裁判所はそれぞれ8月22日と9月9日に判決を言い渡す。タクシン氏の影響力が低下する可能性があり、地元メディアは「裁判所の判断はタイ政治の転換点となるかもしれない」と指摘している。
【時事通信社】
〔写真説明〕職務停止命令を受けたタイのペートンタン首相=7月1日、バンコク(AFP時事)
2025年08月18日 08時33分