【ジャカルタ時事】インドネシアでプラボウォ大統領が就任してから20日で1年となる。野党勢力が弱体化する中、反対意見に耳を傾けない独善的な政治姿勢が際立ち、民主主義の後退も懸念される。経済が低迷する中で起きた8月末の反政府デモは沈静化したが、国民の不満はくすぶったままだ。
◇「無料給食」を推進
陸軍で特殊部隊司令官などを歴任したプラボウォ氏は、ジョコ前政権で国防相を務めた。3度目の挑戦となった2024年2月の大統領選で、幅広い国民の支持を得ていたジョコ前大統領の路線継承を掲げ当選した。当初、与党の議席は過半数に満たなかったが、他党の取り込みを進め、議席の8割超を占める連立与党体制を実現。自身の肝煎り政策を推進してきた。
論議の的となっているのが、低所得層の支持を得るために公約した「無料給食」事業だ。学生らに栄養バランスの取れた食事を提供するために膨大な予算が必要で、インフラ整備費や地方交付金を大幅に削減し、地方経済の低迷につながる懸念が出ている。
NGOのまとめによると、無料給食では1万件を超える食中毒が発生。拙速な導入の見直しを求める声が大きくなっているが、プラボウォ氏はこうしたミスは全体の「0.00017%」にすぎないと主張。今後も事業を拡大する方針だ。
◇中間層が減少
8月末には、国会議員の高額な住宅手当への反発をきっかけに、ジャカルタで大規模な反政府デモが発生。男性1人が警察車両にひかれ死亡したことでデモ隊の一部が暴徒化し、全国で10人の死者が出る事態となった。
プルバヤ財務相は今月9日、デモは経済が減速して国民生活が苦しくなったため起きたと説明。国軍が治安維持に当たるなどして事態は沈静化したが、背景にある国民の不満は解消されない状況が続く。
インドネシア大学の研究所によると、中間層の人口は23年に約5200万人で、18年の約6000万人から800万人以上減少した。プラボウォ氏は近年5%程度にとどまる経済成長率について、29年までの任期中に年8%を達成できるとしているものの、懐疑的な見方が多い。
アジア経済研究所の川村晃一海外調査員は、軍によるデモ対応が、「政権での軍の存在感の高まりを象徴する」と分析。政権中枢に外部の声が届きにくく、政策決定過程が不透明なことと相まって、「民主主義の後退」が進んでいると指摘した。
【時事通信社】
〔写真説明〕インドネシアのプラボウォ大統領=14日、ジャカルタ(AFP時事)
2025年10月19日 07時08分