ウサギの島「加害の歴史も」=旧軍毒ガス工場、地図から抹消―元高校教諭訴え・広島県大久野島



瀬戸内海に浮かぶ大久野島(広島県竹原市)は、野生のウサギが500~600匹生息する「ウサギの島」として有名だ。ただ、島にはかつて旧日本陸軍の毒ガス工場があり、秘密保持のため島は地図から消されていた。島の歴史を約30年伝え続ける同市の元高校教諭山内正之さん(80)は「日本による加害の歴史にも目を向けて」と訴える。

大久野島は約0.7平方キロメートルと小さいが、1929年には旧陸軍が毒ガス工場を建設した。工場では皮膚にただれを起こす毒ガス「イペリット」などに加え、風船爆弾も作られた。山内さんによると、45年8月の終戦までに約6600トンの毒ガスが製造され、6600人ほどが作業に従事。毒ガスの一部は中国に配備された。

山内さんは社会科教諭だった時、配備された毒ガスが遺棄され、被害が出ていることを知った。その実態を伝えるため、島の歴史の案内を約30年前から始めた。

5月中旬、山内さんは岐阜県から修学旅行で訪れた中学生を案内した。島を一周し、毒ガス製造従事者の慰霊碑前では、慢性気管支炎などの後遺症に苦しんだ体験者の話を紹介。「君たちと同じ年代の子どもも作業に来た」と説明すると、生徒らはメモを取りながら熱心に耳を傾けた。

工場に電力を供給した発電場跡では、風船爆弾の気球を膨らませる作業が行われたことにも触れた。山内さんは「戦争は知らないうちに国民全体が協力させられる。人ごとではない」と述べ、ガイドを締めくくった。

旧満州(中国東北部)からの引き揚げ者でもある山内さんは、毒ガス被害を受けた中国の人とも交流を続けてきた。「国境を超えた交流が戦争を防ぐ第一歩だ」と力を込める。

島に来て日本による加害の歴史を初めて知る生徒も多く、「活動の大きな力になっている」と話す山内さん。「戦争に関し、日本は被害者だけでなく加害者の面もある。島の案内を通じ、『未来の平和のためにできることをやろう』と訴え続けたい」と意気込む。

【時事通信社】 〔写真説明〕修学旅行で大久野島を訪れた中学生に島の歴史を説明する山内正之さん=5月15日、広島県竹原市

2025年08月02日 14時33分


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